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仕返し




「…通じたん?」

「うん。」

「……。」


優しく微笑むマツバさんを前に、俺たちは目を逸らした。何でって、何だかマツバさんの背後におどろおどろしいオーラを感じたからである。…マツバさんには極力逆らわないようにしよう。


「それより、ロケット団はいつ仕掛けてくるんやろ。」


アカネは奇妙な空気を払拭しようと、そう言って百貨店に視線を移した。肝心のロケット団には未だ何の動きもない。


「そろそろじゃないかな。」


マツバさんの言った直後、黒い服の集団がゆっくりと姿を現す。よくよく見るとどうやら戸惑っているらしかった。恐らく、もはや避難が終了し見通しのよくなったこの道にだろう。

自動ドアが開く。うじゃりうじゃりと零れ出てくる真っ黒い集団が、あの家庭に出る黒光りした昆虫を思わせて何だか不快だ。その不快感を耐えながらボールを握るとボールが震える。俺のピジョットは名前によく懐いていた。


「これ以上好き勝手させへんよ!」

「誰だお前達は。警察か?」

「ジムリーダーや!」


恐らくリーダー格らしき男が前に出て口角を上げる。


「ジムリーダー?ふは、たった三人か!ジムリーダーと言えどこの人数相手に三人?くくく、」

「二人だ。」

「は?」


ボールを翳して言うと、男はさらに口角を上げた。


「二人?一人はただのトレーナーと言うことか?」

「違う。お前達なんて、俺とアカネの二人で充分だと言っているんだ。…ピジョット!」


ボールの開閉ボタンを押すと、飛び出したピジョットが激しく羽ばたき、威嚇する。


「面白い、ラッタ!」


男が投げたボールからラッタが飛び出し、ピジョットを睨む。


「…待って。」


静かに発せられた声が、戦闘を始めようと次々に手をボールにかけるアカネやロケット団を制した。


「戦いを始める前に、君に返して欲しいものがあるんだ。」


そう言ってマツバさんがボールを放ると、にやにやと笑うゲンガーが現れる。


「大人しく返してくれないか。」


「はあ?」


指を差されたラッタのトレーナーは目を丸くする。それもそうだ、突然初対面の男に話を振られたのだから。そんな事はお構い無しにマツバさんは言葉を続ける。


「飛び出さないようにガムテープまでしたのか。酷いな。」


その言葉を聞いた途端、ロケット団員達は顔を真っ青にした。


「ら、ラッタ!ゲンガーにでんこうせっか!!」


男は余程錯乱したのだろう、ゴーストタイプにノーマル技だなんて初歩ミスもいいところだ。しかし、直ぐに俺はマツバさんのゲンガーへの指示に耳を疑うことになる。


「ゲンガー、シャドークロー!」

「ちょ、マツバさんっ!?」


ノーマルタイプとゴーストタイプが互いに無効だと言うことはマツバさんが知らないはずはない。例えどんなに腸が煮えくり返っていようが錯乱していようが焦ろうが、大きすぎる失態をすることは絶対にあり得ない。それほどに俺達ジムリーダーにとって専門タイプと言うものは脳髄に刷り込まれた確固たる記憶だからだ。

だがそんな事を思う間に、目を剥いた俺やアカネの目の前でゲンガーの体をラッタが擦り抜けた。


「!!」


そしてそのラッタは勢いをそのままに、マツバさんに飛び込んでいく───


「「マツバさん!!!」」


アカネと俺の声が悲鳴に近い声を上げたとき、マツバさんは場にそぐわない程ににっこりと笑んだ。静かに、声が響く。


「ムウマージ、だましうち。」


いつの間に放たれていたのだろう、ムウマージがマツバさんの寸前でラッタを叩き付けた。


「う、うわああっ!!?」


マツバさんに意識をやっていた俺は驚いて悲鳴の先を振り替える。そこには顔の前に手を翳すラッタのトレーナー。ざくり、音を立ててそいつの服がゲンガーに切り裂かれた。


「!」


避けた部分からは茶色い玉が3つ零れ落ちる。それが地面に落ちる前に器用に掬って、ゲンガーが戻ってきた。


「ゲンガッ!」

「ありがとう。」


マツバさんが受け取ったそれはよく見るとぶるぶると震えている。覆う茶色を彼が細い指で少し剥がすと、ダークボールらしい色合いが見えた。…ダークボール?


「マツバさん、それ…」

「そう、名前ちゃんのポケモン達だよ。」


アカネも気付いたのだろう、小さく問うとマツバさんはべりべりとガムテープを剥がしながら頷いた。


「て、てめぇ、ジムリーダーのくせに…っ」

「汚い手を使うなって?…目には目を、歯には歯をっていうじゃないか。…ね。」


マツバさんは全てのテープを剥がし終えると、ラッタのトレーナーの隣の男に鋭い視線を浴びせる。男は小さく悲鳴を上げて慌てて後退った。


「君のガーディが、名前ちゃんにでんこうせっかをしたんだよね。」


穏やかな口調ではあったが、そこには疑問符も優しさも皆無だった。


「なんやて…?」

「お前…!」


しかしもうマツバさんの声の鋭さなど恐ろしくもなんともない。それよりも目の前の男達に感じる憎悪の方が遥かに上回っている。幼なじみがされた仕打ちに怒りで拳が震え、それに呼応するようにピジョットも甲高い声を上げて怒りを露にした。


「あとは任せていいかな。」

「当然や!こいつら全員、うちが相手したる!」

「いや、俺のとりポケモンだけでも十分だ!」


次々に飛び出すポケモン達を前に、俺とアカネは手持ちを全員出して男達を睨み付ける。


「せやからマツバさんは早く名前を!」


マツバさんは頷いてフワライドを出した。


「ありがとう。」


マツバさんからお礼は必要ない。俺達は個人的にこいつらが許せないのだから。


「さあ、」


仕返してやる
(行こう!アカネ!)
(行くで!ハヤトくん!)





100801
二人のキャラが本当に
わからない/(^O^)\




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