適わない
僕は少し、調子に乗っていた。あんな風にしっかり僕が吸血鬼だとバレた相手と関わるのが初めてで、どうやらテンションが高くなっていたらしい。彼女は僕を怖がっていたけれど、本当は僕を否定するかしないか迷っていたのを知っている。僕は否定しなかった彼女に、テンションが高くなったのだ。そして結局そのテンションのままに、小学生の様な意地悪いことをした。馬鹿すぎて昨日までの僕を殺してしまいたい。その前にまずは彼女に謝らなければ。そう思って溜め息を吐くと、今日も無駄に涼しく微笑むミクリが僕に溜め息を吐いた。
「…何。」
「意地悪しすぎたんだろう。」
「……何の話?」
ずばり、図星だった。さすが長く友人をやっているだけのことはある。僕のしそうなこと位予想がついていたようだ。とぼけてみせたがそれも無意味な様で、ミクリは更に笑みを濃くした。
「やっぱり。」
「……。」
「ダイゴ、少し調子に乗り過ぎたな。」
「…うるさいなあ。」
そう言って机に突っ伏すと、くすくすとミクリの笑いが降り注ぐ。
「その拗ね方、小学生の時ダイゴがアプローチしてた子が、シロナ先輩にベタボレに」
「うるさいって!」
それ以上言わすまいと慌てて顔を上げると、ミクリは意地悪くにっこりと笑った。それに合わせて廊下から黄色い悲鳴があがったが、こんな笑いでさえフィルターがかかってしまうのかと目に手をあてた。ミクリは軽く廊下に手を振ってから再び僕に報告と言う名の尋問を要求する。
「で?その爽やかそうな顔でどんな意地汚い事を?」
「もういいだろ…疲れた…。」
「大方恐がらせる様なことでもしたんだろう?」
「……」
「やっぱり図星だ。」
君はエスパーか!と言う言葉は悔しいので飲み込んだ。
「謝ったら?」
「……。」
細かい事情を知らずとも、ミクリの言うことは正しかった。僕だって謝るべきなのは百も承知。だが、彼女はきっと昨日の待ち合わせ場所には来ないだろうし、教室まで行ったところでまたあの怯えた目で僕を見るのだろう。そう思うと自分の蒔いた種であれど心が重かった。
「怖がられたら、諦めればいい。」
「…諦める?…ああ、謝るのを?」
「いや、」
ミクリは首を横に振る。それから少し躊躇して、再び口を開いた。
「友達になるのを、だ。」
「…は?」
何を言ったのか一瞬意味が取れず、間抜けな声をあげる。友達になるのを?一応言っておくが、僕は友達がいない訳でも少ない訳でもない。元来生まれ持った社交性(自分で言うのもどうかと思うが。)から、人付き合いに困った事は数える程しかない。それも妬みだとか嫉妬だとかそういったもので、僕の人格から派生したものではなかった。つまり、隣のクラスの、アフロ君位しか友達のいないデンジ君や、無口過ぎて幼なじみしか友達のいないレッド先輩とは違うのだ。(ちょっと言いすぎたが心の中で位ならいいだろう。)
「ダイゴは、面白そうだからからかって遊ぼう程度に捉えていた様だけど、」
「……。」
本日三度目の図星に、思わず目を逸らす。ここまでくると、ミクリは人間でも吸血鬼でもなく、エスパーなんじゃないかと声を大に叫びたくなってくる。
「でも、多分ただ自分を知る人と友達になりたかっただけだろう。」
「……。」
「吸血鬼だとか関係なく、自分を認める友達が欲しいだけだ。」
吸血鬼、その部分は声を小さく溢す。ミクリは少しだけ泣きそうな顔をした。何でも分かっているような、そんな顔に何だか腹が立つ。だけどやっぱり図星で、ミクリは何でも分かっている。
"要らないよ、要らない。こんな子、要らない。"
僕がそう言ったあの日を思い出しているのだろう、僕もそうやってミクリを分かっているので、多分お互い様だ。
「そうだね。謝るよ。」
だからやっぱり僕の親友はミクリなのだ。
「待ち合わせ、来てくれるといいな。」
ミクリが柔らかく笑むものだから、僕のありがとうは黄色い悲鳴に掻き消された。
どうにも適わない
(悔しいけれど、)
(ありがとう。)
100621
ミクリさんはダイゴさんに
対してエスパーなイメージ。
デンジさんと赤様の人気に
嫉妬してるのバレバレ。(私が)
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