いっておいで
「じゃあ、荷物取ってくるから。」
そう一言かけて、保健室を後にする。他の棟とは異なり出し物がないために比較的静かな廊下を一人進む。ぺた、私以外の人間の足音が、しんとした廊下に響いた。
「!名前ちゃん…」
小さなビニール袋を持ち、こちらへ向かってくる彼女の表情は硬い。
「…どこに行くんだい。」
「…保健室です。」
一拍間があったものの彼女の瞳は鋭く私を射抜いていた。どうやら真っ向から衝突する覚悟はあるらしい。
「君は、どういうつもりでそんなことを?今君がダイゴに会うと言う事が、どれだけまずいことかわかっているんだろう?」
「はい、わかっています。」
彼女の考えなしとしか思えない行動に、腹が立つ。
「なら、」
「それでも!」
「だめだ!!君が行ったら二度とダイゴは戻れなくなる!!君だって!!」
「それでもです!!」
私たちは呼吸を荒げて睨みあったまま。一向に揺らがない彼女の瞳。…その一方で私の考えは揺らいでいた。
彼女が知らずにダイゴを吸血鬼にして、狂わせた。そうして今、知らずにとどめを刺そうとしているのだと。私は心の奥底できっとそう思っていた。そしてその考えを以って行動していたのだろう。だから、遠ざけた。けれどもその考えが今になって揺さぶられている。目の前の揺らがない視線一つ、それだけに。
本当に彼女を遠ざければ、この問題は解決するのか?…。
そうだ、彼女を近付ければ再び同じ過ちが起きてしまうかもしれない。そうならないためには、やはり彼女は遠ざけるべきなのだ。でも。…。
考えが、揺らぐ。
「先輩。」
今までの流れから零れたとは思えない程に落ち着いた声に、ざわめく私の思考が宥められた。
「保健室に、行かせてください。」
――ああ、どうして気付かなかったのだろう。
私は疑問に思っていた。
何故当時小学生であったダイゴが、あんなにもあの子に固執したのか。友情の延長でも、淡い恋心でもない、幼い心に不釣り合いな程の強烈な執着。
何故あの子の全てを忘却したにも関わらず、何年もの間吸血衝動が治まっていないのか。
「ダイゴ先輩に"自分が怖いか"って、聞かれました。…それ、ずっと前にも聞かれたことがある気がしてるんです。」
誰でもよかったわけじゃない、偶々出会ったあの子だったわけじゃない、なんとなくなんて曖昧な気持ちだったわけじゃない、幼い故の思い込みでもなかったのだ、きっと。ダイゴにとって、あの子だけが運命だったから――そういうことだったのだ。だから、
「多分今を逃したら私、絶対後悔します。」
ダイゴを人間に戻すことが出来るのは、"あの日のあの子"―――名前ちゃんだけ。
「だから、」
「うん。」
いっておいで
(あの過去にこそ)
(全ての意味があった)
141211
無理矢理でも!終わらせたい!!
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