歪んだ
「そうだね、その色でいいんじゃないかな。」
メインの部分が終わりあとは細かい部分。メインと被らないように、細かな飾り付け部分の色合いを打ち合わせていた。その間、ほんの数分だ。しかしその数分は、彼が逃げだすのには十分な数分で。
「!あれ、ダイゴは?」
「ダイゴくんなら出てったよ。ちょっと前に。」
「そうか…。」
緩く返したものの、嫌な汗が背中を伝う。まさか、このタイミングで名前ちゃんがこの棟にいるとは思わないが、それでもいないとも限らない。出し物のポスターなんて貼って回っていたら、はち合わせてしまうかもしれないし。…いや、今朝言ったばかりだから、滅多にそんな仕事は引き受けないだろうとは思うのだが。
それに校舎にいる限り、人目もある。さすがのダイゴもとんでもないことは起こさないだろう。…、…。
「ちょっとお手洗いに行ってくるね。」
「はーい。」
用心に越したことはない、ダイゴを探そう。結局そう思い至り、私は教室を後にした。
(要らないよ、要らない。こんな子、要らない。)そう言って泣いたあの日のダイゴが、未だに脳にこびり付いている。
(どうしても、この子が、)そう言って歪んだ唇のその内の、赤黒く染まった舌が未だに鮮明に思い出せる。
あの日と同じことが今起きたら、今度は何も取り繕えないだろう。きっと次こそダイゴは、"一生吸血鬼のまま"だ。
「あ、」
いた。私の視線の先、ふらふらと歩くダイゴが。先日はもしかしたら具合が悪いのでは?という程度だったダイゴだが、今日は朝から目に見えて体調が悪いようだった。これは予感だが、恐らく碌に食事をとっていないのではないだろうか。立ち上がる際に立ち眩みもしていた。原因である吸血衝動同様、純粋にその体調不良も心配だった。
声を掛けようと近付いていくと、ダイゴの足がぴたりと止まった。視線は左に振っている。何かあったのだろうか?ダイゴはそのまま視線の先へ足を向けた。進行方向は、二階へ続く階段。ダイゴの様子に不安になり、私は慌てて彼の下に急ぐ。
「…っダイゴ!!!」
下げた視線、そこには今にも噛みつきそうなダイゴと、彼女。
歪んだ唇
(彼の背中と)
(ひっそりと弧を描く彼女の、)
(、え)
140629
修正140817
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