こわい
「名前ー、ポスター貼りに行こーよ。」
「おっけー、行こ!」
着色され、それを乾かしていたポスターの中から乾いているだろうものを選び、丸める。数枚を軽く輪ゴムで止め、セロハンテープを掴んで教室の出入り口で待つナタネに続いた。
「やー、楽しみだね文化祭!」
「だね!!」
「そういえばダイゴ先輩のクラス、何やるんだっけ?」
「タピオカだって。」
「あーそうだったそうだった!タピオカかあ、いいよね!」
活気溢れる、そして同時にダンボールや色紙の溢れる廊下を、注意を払いながら進む。各柱毎に様々な出し物のポスターが貼られていた。うちのクラスのも貼られていたから、私達の教室のあるこの棟から貼り始めているのだろう。
「ね!私タピオカ好きー。」
「私も!…もちろんダイゴ先輩が入ってる時間に行くよね??」
「えっ、嫌だよ。」
「えっ、何で。」
「…恥ずかしいでしょ。」
「いいじゃんいいじゃん、私達も一緒に行くからさ〜。」
「い・や・だ。」
他愛無い会話をしながら、私達の足が渡り廊下に差し掛かる。え、まさか。
「ねぇ、A棟全部貼り終わったの?」
「うん、次はB棟だよ。」
「C棟は?」
「C棟は出し物自体ほぼやってないから、ポスターは後回し。まず目につくとこから貼らないと。」
そう言いながらどんどんB棟へ向かう私達。まずい。B棟は2年生、3年生の教室がある棟だ。つまり、ダイゴ先輩と遭遇する可能性が高い。今朝にミクリ先輩からご忠告頂いたばかりだと言うのにそれはまずい。B棟に踏み込み、ナタネの足は迷うことなく階段へと向けられる。
「ね、ねぇ、1階から貼ってこうよ。階段つらいしさーははは。」
「何言ってんの!1階なんて職員室と特別教室しかないんだから、後回し!それより3、2階優先でしょ!」
「う、うん、そうなんだけどさ…。」
「もー、勝ちに行くんでしょ?ほらほら、行こう!」
文化祭には人気投票というものがあり、在校生や来場者がパンフレットについたアンケート用紙を提出し、もっとも優れた出し物を決めるという企画になっている。大抵全校1から3位には体育館ステージでの出し物のダンスや演劇等が入ってくるが、学年優秀賞には私達の出す喫茶店等も十分入る余地がある。そして、もちろん私達はクラス一丸となってその学年優秀賞を狙っているのだ。その為に重要な大前提は分母である。つまり、いかに多くの人に訪れてもらうかがポイントだ。
「名前?」
「えーっと…」
「しょうがないなあ、2階と3階、どっちがいいの?」
「!2階!2階で!!」
もちろん2階は3年生の教室が並んでいる。
「そんなに恥ずかしいの?」
「うん!!!」
ナタネの溜め息は聞こえない振り。恥ずかしいのは確かにあるから、普段であっても私は嫌がっただろう。けれど、きっとここまでじゃない。仕方ないと言い聞かせながら黙ってポスターを貼りに行くはずだ。恥ずかしい気持ちと、少しの期待を抱いて。
2階に到着したが、私は別れることなくナタネに続く。
「踊り場も貼るよね?」
「うん。」
「じゃあ私貼るね。」
「ありがとー。」
踊り場の壁にはすでに何枚ものポスターが貼られていた。ナタネを見送ってから、他のポスターを避けたスペースに一番派手なポスターを宛てがう。さすがに目立つスペースはもう取られていたけれど、ここならそれなりに目立つだろう。私は丸めたポスター数本を床に置き、セロハンテープを使おうと指で粘着部分に触れた。
「名前ちゃん。」
聞きなれた声が、響いた。上下階から煩く響くざわめきの、どれもこれもを押さえつけて。いけない、そう思うのに、私は首だけで振り返った。
「、ダイゴ先輩。」
階段を下るダイゴ先輩の表情は、暗い。廊下の窓から差し込む光で、逆光になっているから。いや、多分、それだけじゃない。先輩の顔に何の色も温度も無いから、色濃く影が映っているんだ。
たん、たん、
恐らく私は、逃げた方がいい。
たん、たん、
怪しく光るあの目の、届かないところに。
たん、たん、
わかっている、わかっている、わかっている。…でも、
たん、たん、
動かない。
「ねぇ、」
白い唇が揺れる。口角は上がっている。白い指が、私の片頬を撫でた。包む。後頭部に滑る。掴んだ。
私の首が、傾げられる。
「こわい?」
(何と言ったら、)
(その牙は突き刺さるのだろう)
140628
ひっさびさすみません
そしてナタネちゃんの口調
全くわからん!
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