やあ
(くそ…っツワブキダイゴめ…!)
思わず心中で彼を罵る。全て、昼休みの全ては、彼のせいなのだ。
「はあっ、はっ、」
「おかえり名前、どうだった?」
教室に駆け込むと、私を待っていたナタネとアカネがこちらを見た。二人は酷く心配そうな顔をしている。私は暫く息を整えることと見た秘密をまとめることに専念する。
「…っ、」
「…ど、どしたん?ダメやった?」
「…な、にが…?」
「何がって、え?」
「え?」
三人で顔を合わせ、瞬く。彼女らは何を言っているんだろうか。暫く置いて、まずアカネがひそひそと小声で口を開いた。
「ミクリ先輩に告白したんちゃうの?」
「……」
瞬間、頭がさっと冷える。そうだ、私があの場に行ったのは…、
「あっ、あああ!」
「ええっ、してへんの!?」
「何で!?てか何で忘れてたの!!」
「だっ、だってツワブキダイゴが…!」
そこまで言って慌てて閉口する。危ない、きっと誰かに言ったら私は血を吸われて干物にされてしまうに違いない!そこまで考えてぞっとした。そうだ、彼は吸血鬼。私が見たことはバレていないだろうか?私は今になって恐怖に慄いた。
「ダイゴ先輩…?」
「え、えーっと、あ!ダイゴ先輩がミクリ先輩に話し掛けちゃって…!」
「?ふうん。」
訝しげに二人は私を見たが、我ながらいい言い訳だった。ダイゴ先輩とミクリ先輩は親友だ、話していようと何も不思議はあるまい。が、そこでちょっと心配になった。男とはいえ、ミクリ先輩は美しい。つまりダイゴ先輩に狙われてやしないか、と。吸血鬼は美しい人間の血を吸う、というのが私の中の吸血鬼像だ。あれ、もしそれが当たってたら、悲しいけれど私は対象外!わーい。
「でもさあ、それじゃあ名前がすっぽかしたと思われるんじゃない?」
「せや、イタズラやと思われるんちゃう?」
「…う、嘘ぉぉぉっ!そんな、そんな、…嘘ぉぉぉっ!?」
そう、全てツワブキダイゴのせいだ。私はこれからミクリ先輩にどんな顔で接したらいいと言うんだ。まあ、接する機会はないし、名前も顔も覚えられてなどいないのだろうけど。しかしもう二度と私の名前で告白することは叶わない。
そして、今になって考えると、私は私の目が信じられなかった。と言うのも、吸血鬼なんて都市伝説みたいなものだと思うからである。過去、歴史の中の残虐な人間だとかが吸血鬼なんて呼ばれたのは聞いたことがあるし、ゲームなんかではキャラクターとして存在しているけれど、一般的に吸血鬼は国外版の妖怪…例えばゾンビだとかキョンシーだとかそういう類のものなのだ。信じる信じないに差異はあるものの、実際いると言う証明が出来ていないという点では同じである。ちなみに私は幽霊は信じるけれどゾンビだとか妖怪だとか、そういうモンスターは信じない。だから、吸血鬼なんて信じないのだ。
つまり、吸血鬼を信じない私の脳みそが出した答えは"ツワブキダイゴはちょっとしたSMをお楽しみ中だった"である。勉学の為の神聖な校内でなんと破廉恥な奴なんだツワブキダイゴ!仮にも爽やかで通っている男が、とんだスキャンダルである。ツワブキダイゴが吸血鬼だという話は誰にも信じてもらえないだろうが、SM好きだという話なら望みがありそうだ。
よし、それでいこう。私は校門に向かいながら考えをまとめた。ツワブキダイゴ、先輩だからと言って許すわけにはいかない。なんたって今日の私の失敗は彼のせいなのだ。私は校門から一歩踏み出した。
見ていろ、
「ツワブキダイゴ…!」
「ん、なあに?」
直ぐに返ってきた返事に、背筋が凍った。今日通算三度目である。
振り返ると今まさに私の脳内を闊歩する男子生徒がにっこりと微笑んだ。品のいい顔に似合わない鋭い犬歯が覗いた気がした。
「やあ」
(今帰り?一緒に帰ろうよ)
(な、なな、な、)
100608
コガネ弁に自信がない
ので今後アカネちゃんの
出番減らしたいな!
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