素直じゃない
体育祭で潰れた土曜日の振りかえ休日が入り、登校したのは火曜日。体育祭が終わったばかりだというのに今度は文化祭の準備で忙しくなる。いや、準備の大掛かりさや取り組む姿勢等を考えると、文化祭は体育祭より遥かに忙しい行事だ。6限のHRで必死にキャッチコピーを考える同級生達に、面倒くさいなあなんて本音を零しそうで怖かった。ちなみにうちのクラスはタピオカを入れた飲み物を売るのだとか。これもぼんやりしている内に内容が決まっていたのだ。
何はともあれ帰りのHRが終わったので早々に帰る事にする。来週からは名前ちゃんも僕も一緒に帰ることが出来なくなるであろうから、その辺の話もしておきたい。がたん。
「あ、ミクリ、じゃあね。」
「ああ、じゃあ。」
丁寧に教科書を鞄に入れているミクリに声をかけ、教室の戸に手を掛けた。がたん。
「ダイゴ、忘れてた。」
「?、何が?」
「今日、名前ちゃんお休みだよ。」
「……は?」
思わずミクリを凝視する。何だそれ、僕は聞いてない。
「何で?」
「風邪だって。」
「何でミクリ、知ってるの?」
「何でって…彼女からメールが来たんだよ。」
「……何で?」
何で。その言葉にはたくさんの意味が含まれていた。何で彼女がミクリにメールしてるのか。何でミクリが彼女のメアドを知っているのか。何で彼女はミクリにメアドを教えているのか。何で彼女は僕にメールしないのか。何で僕は彼女のメアドを知らないのか。何で。ぐるぐると何かが鳩尾あたりを暴れまわる。腹が立った。
僕のその感情をあっさり理解しているであろうミクリが苦笑する。
「そう睨まないでくれ。」
「…睨んでなんかない。」
ミクリは手に持った携帯に視線を落とし、弄る。その動作さえとても腹立たしい。
「悔しいのは分かるけど。」
「悔しい?何が。」
「相変わらず、素直じゃないなあダイゴは。」
「相変わらず、鼻につく物言いだよねミクリは。」
そう言いあっている内にミクリは鞄を持って僕の隣に並んだ。弄っていた携帯はミクリの鞄の中に仕舞われた。
「久しぶりに一緒に帰ろうか。」
「……。」
「…今ね、彼女にダイゴにメアド教えていいか、メールしたんだけれど…。」
「ああそう。」
教室の戸を開けて歩きだす。並んで立っていたミクリがついて来ないので振り返った。
「何、帰るんじゃないの?」
「ふふ、帰ってもいいのかい?」
「どうせ帰り道一緒だろう。」
「ああそう、くく、」
「………。」
「ダイゴって本当に、」
素直じゃないよね。
(…知らない振りとか)
(覚えたらどう?)
「ごめんごめん。」
「……。」
110928
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