気紛れ
「よ、」
意識を失った誰かを負ぶる。名前も知らないけれど、さすがに僕のせいな訳だから放置は出来ない。
「あれ、ダイゴ?」
「ミクリ。」
女子とはいえ、一人背に負ぶっていると視線は地を這わざるを得ない。声が聞こえたのでその視線を無理矢理上げた。そこにいたのは声から予想した通り、エメラルドグリーンを揺らす彼だ。
「もしかして被った?」
「え、ダイゴも告白?食事じゃなくて?」
「冗談。」
そう言うとミクリはごめんと笑った。
「告白される前に噛み付いちゃったんだ。今日はすごく牙が疼いてたから。」
「じゃあ告白は聞いてあげなかったのかい?男の風上にも置けないな。」
フェミニストのミクリにとって、僕の行動はNGだったようだ。軽く睨まれる。
「血のどこが美味しいんだ。」
「それは飲んでみないとわからないよ。」
そう笑うと、ミクリは眉を寄せる。そのミクリに僕は苦笑して、彼に言わなきゃいけない事を思い出した。
「そういえば、ミクリの相手は逃げちゃったよ。」
「…見られたのか。」
「見られたよ。」
少し深刻そうに呟いたミクリに、さらりと返す。何故なら、見られたことなど今後の学生生活に何の支障も来さないからだ。
「妙に冷静だな。」
「まあ、言われたところで誰も信じないよ、このツワブキダイゴが吸血鬼だなんてね。」
「…確かに。だけど困ったな…」
「?何が?」
「私は彼女の想いを聞いていない。」
真面目な顔でそう言ったミクリに、わざとらしく溜め息を吐いた。
「いいだろ、そんな「そんなことじゃない。」
溜め息と共に吐き出した言葉はびしゃりと遮られる。
「呼び出しにはかなりの勇気を振り絞ったはずだ。そんな無垢な勇気を無視できるはずがないだろう。」
「…固い。」
背中に背負った重さを少し跳ねて持ち直した。
「だけど君が直々に会いにいって、さあ時間を空けるから告白しろ!って言う訳にもいかないだろ。」
「…まあね。」
いい加減保健室に向かいたい。手が痺れてきた。ミクリもそれを察したのだろう、校舎に歩を向け始める。
「それよりさ、」
ああそうだ。バレてしまったのなら、バレたなりの遊びを見付けよう。今まで誰かにバレたことなど無いのだ、僕の秘密を知った人間がどう反応するのか、すごく知りたい。
それは突然の欲求だった。まるで血が欲しくなるときの衝動に似ている。欲しい欲しい、欲しい。
「今日君に告白するはずだった子って、誰だったの?」
吸血鬼の気紛れ
(たまには赤ワインもいいね、)
(赤い薔薇もいいよ。)
「ところで昼休み終わるね。」
「昼抜き、か…」
100607
方向性が迷子
ダイゴさんのキャラが迷子
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