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我ながら



体育祭は順調に進み、騎馬戦を終え、所定の保健委員席へ向かう。

だるい。疲れた。やっぱり場になると本気になってしまった…。むきになる辺り、僕もまだまだ子供らしい。

次は全学年合同の選抜リレーだ。一学年四人の計十二人で一チーム。一人につきトラック半周走るのだが、どうやら名前ちゃんはこちらに近い方からスタートするらしい。体育座りの見慣れた顔がよく見える。


「ダイゴくんの彼女でしょ、あの子。」

「うん。」


いつの間にか噂は回っていたのか、もう僕の彼女の存在は知れ渡っていた。しかし心配した嫌がらせなどはさすがに高校生にもなると(表立っては)無いらしい。…実は少しほっとしている。


「足早いんだな。」

「そうみたいです。」


先輩の言葉に頷く。僕が言われたわけではないのに何となくこそばゆい。


「ダイゴくんのタイプってあーゆー子だったんだー。」

「……。」

「ふふ、ごめんごめん!」


同じクラスの女子がけらけらと笑う。からかわれるのは何だが悔しい、しかしどう反応したらいいのかいまいち分からないので口を噤むことで不満を示した。

ふと、彼女がこちらを見る。目が合った。控えめに振られる手に、僕も同じように振り返す。目を逸らすかと思ったのに、意外だ。ちゃんと手を振ってくれるなんて。逆に僕の方が照れくさくなってしまう。そんな事を考えていると、僕の両隣りにそれぞれ座っている女子と先輩が、僕とは対照的に大きく手を振りだした。名前ちゃんが戸惑う。それから、照れる。


「……、(かわ、…、いやいやいや…!)」

「かーわいー!」

「かわいいかわいい!萌えるー!」


照れた名前ちゃんを二人がはやし立てた。僕は慌てて二人を制止しようと何とか口を開く。


「ちょっと…!」

「すいませーん!ふふふ!」

「怒るなよツワブキー。彼女怖がるぞー。」

「………。」


気に入らない。それを隠さずに顔に描けば、二人は茶化す様に軽く両手を上げて笑った。言う言葉が見つからずに眉根を寄せると、いつの間にか第一走者が並んでいたらしい、リレー開始の合図が響く。

パン!

名前ちゃんは第四走者だ。つまりグラウンド一周半で彼女にバトンが渡る。あっと言う間だ。

一位は青組。そしてその直ぐ後に僕らの白組が駆けてくる。名前ちゃんにバトンが渡った。彼女は一位との距離をぐっと詰める。さあもうすぐ追いつく、まさにその時、青組の子が転んだ。バトンが零れる。そして、それは彼女の走行ルートに転がり、踏まれる。




「あ!」



思わず声を上げた。


「…っあぁー!」

「いったぁぁ…!」


そして隣の二人も痛そうに声を上げる。僕らの視線の先には思い切り転んだ名前ちゃん。見ているだけで痛そうな転び方をしていた。大丈夫だろうか。普通はそう思うだろう。しかし僕は――、


「絶対あれ痛いよー!」

「見てるだけで痛ええ…」


周りの雑音なんて聞こえないほどに気が高揚していた。彼女が、転んだ。その事実にどうしようもなく高ぶっている。


「がんばれー!」

「まだいける!まだ四位だ!」


痛みを堪えて走る彼女の、膝をじっとりと見詰める。

血は、出たろうか?

そんなことしか頭になくなっていた。


我ながら
馬鹿だと思う。

(鎮まれ静まれ、)
(どく、どくどく、ど、)





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