何気ない
夢を見た。
血溜まりに沈む、少女。
沈めたのはきっと僕。だって、
ぼたぼた、ぼつ、ぼ。
だって、重たげに血液が僕の顎先から滴り落ちているのだ。
どうしてこうなったんだろう。余りにも短絡的な思考で、即物的な欲求で、酷い。そんなような気がする。この子が、僕を見なかった。僕だけを、見なかった。だから、こうなったんだ。
ぼつ。
ぼ。
た。
て。
たた。
ぼくはわるくなかった。
吸血鬼の持つ本能のままに従っただけ。そうだ、こう思ったんだ。どうしてもどうしてもどうしても
(どうしても××××、××い。)
「せんぱーい?」
「あ、え?」
名前ちゃんの声に、はっとする。
「聞いてますか?」
名前ちゃんは眉根を寄せて僕を覗きこんでいた。それに慌てて僕は首を振る。
「ごめん、ぼうっとしてた。」
「もー。」
ぱっと体を離し、名前ちゃんが大げさに溜め息を吐いてみせた。夏も終わったかと思っていたが、久々に暑い陽気にぼうっとしてしまったようだ。聴きそびれた話を促すべく、隣を歩く名前ちゃんに会話を投げる。
「なんの話だっけ?」
「来週の体育祭の話してたんですよ!」
「あーごめんごめん。」
「先輩何に出るんですか?って!」
そう言えば、もう体育祭は来週だ。名前ちゃんは結構楽しみにしているらしく、大変だと愚痴を零しつつ練習にしっかり参加しているらしい。今時体育祭を楽しみにする女子高生というのも珍しいよなあ、なんて随分年食った事を考えるのは何度目だろう。
「ふふ、何、応援してくれるの?」
「気が向けば。」
「冷たいなあ。」
業とらしい笑みを向けると、名前ちゃんは顔を顰めて思い切り逸らした。こういう反応、ええっと、なんだっけ、あああれだ、ツンデレってやつに見える。そう思うと冷たい反応も可愛いものに見えてくるから不思議だ。
「僕は全員リレーと障害物競争と、騎馬戦。」
「騎馬戦…!」
「怖いなあ。あと、だるい。」
"騎馬戦"と言う言葉にきらりと瞳を輝かせた名前ちゃんだが、続いた僕の台詞に再び眉根を寄せた。(やっぱり名前ちゃんって結構体育会系だな…。)
「後半が本音でしょう。」
「バレた?…もみくちゃになるのがどうもね…。」
「もみくちゃにされてしまえ!」
「……。名前ちゃんは?」
「私は二人三脚と天国と地獄…あ、あと選抜リレー!」
名前ちゃんは楽しそうに口角を上げる。彼女の喜ぶ事柄は本当に幼くて、健全過ぎて、僕からするととても物珍しい。そう言う所がからかいたいと思わせる大きな要因なんじゃないだろうか。
「へー、選ばれたんだ。」
「はい。あ、アカネちゃんも!」
「がんばってね。」
「はい!」
名前ちゃんがあんまり嬉しそうに笑うものだから、僕も思わず頬が緩む。名前ちゃんと話しているとこうやって自然と顔が綻ぶのが、新鮮で心地良い。家族やミクリ以外の前では中々無い事のはずだったのに、最近は頻繁な気がするのは彼女のせいに違いない。気恥かしさはあるものの、なんだかんだそれが楽しいから彼女と帰るのは止められないのだろう。
「応援しなきゃね。…あ、僕は保健委員の待機場所にいるから来たかったらおいで。」
「誰が!」
「いい笑顔過ぎるね。」
何気ないのに
(楽しいって、)
(すごくいい事でしょう?)
110717
無理矢理でも完結するぜ
モード発動の気配^^^^^
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