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あれっ?



委員会活動を終え、昇降口を出ると、視線の先に見慣れたエメラルドグリーンを見つけた。駆け寄りながら呼び掛ける。


「ミクリ先輩!」

「ああ、名前ちゃん。」


振り返った先輩が笑った。私は図々しくも先輩の隣に並んで歩く。


「今帰りですか?」

「そうだよ。」


委員会は大抵短時間で終わるのだが、今日は体育委員などの体育祭で仕事のある委員会は長引いた。つまり、先輩は体育祭関係の委員会なのだろう。


「…えーっと、放送ですか?」


当たりをつけて言ってみると、先輩は直ぐに頷いた。


「当たり。」

「私も今日体育委員で…。」

「そう、お互い体育祭当日は忙しそうだ。…あ、ダイゴの委員会は知っているかい?」

「保健ですよね!ふふふ!」


ミクリ先輩もどうやら例の話をネタにしようとしたらしい。先輩は口元に手をやって小さく笑っている。私も同様に左手を口元に当て、笑いを零す。すると、先輩の視線が私の口元でピタリと止まった。


「指、怪我?」

「あ、ああ、はい。」


小さく首を傾げた先輩に、思わず左手の絆創膏を右手で庇うように包んだ。視線を一度逸らしてから、そっと先輩を窺う。先輩はそんな私に、ふと頬を緩めた。


「…、ふふ、吸われると思った?」

「あ、いえ、」


妖艶な笑みにすっと背筋に伝うものがある。先輩は続けた。


「私は血は飲まないよ。ダイゴに聞いてない?」

「え?」

「全く、ダイゴは…」


予想外の事実に目を剥いて先輩を見上げると、先輩は溜め息を一つ。それから困ったように笑って、大げさに肩を竦める。


「私もダイゴもかなり吸血鬼の血は薄い方だからね。私は血なんて飲まないし、ダイゴも偶にだよ。」

「そうなんですか。」

「ダイゴも基本、人のは吸わないしね。」

「じゃあどうしてるんですか?」

「ビンで売ってるんだ。やはり、誰彼構わず吸ってたら困るだろう?」

「何か、秘密ルートって感じですね!」

「そうだね、家系だからね。」


家系だからね、とはどういう意味か。いや、意味は分かるのだけど…。そう思考して、何と言うか迷い、発言の機会は再びミクリ先輩に攫われる。


「ダイゴは君に少し意地が悪いと思うけど、それはくだけた間柄だからこそなんだ。だから大目に見てやってくれないか。」

「え?」


急に、話題が変わった。十分に開けられた間によって不自然さこそなかったものの、急な言葉に戸惑う。


「中々心を許した友人を作るのが苦手な奴なんだ。」

「…あー…」


確かに言われてみれば。なんて、まるでダイゴ先輩を知っているかの様な口ぶりで、脳内の私が頷いた。私が先輩の何を、知っていると、いうのだ。……。

ダイゴ先輩は私の理解の範疇から外れた人間だと言うのに。いや、吸血鬼だと言うのに。


「君とは上手くやってるみたいだし、友達としてでも仲良くしてやって。」

「はは、ダイゴ先輩の保護者みたいですね。」

「ふふ。」


先輩が少しだけ嬉しそうに笑う。その笑顔に少しダイゴ先輩を羨ましく思った。それはただ純粋に二人の間の友情に対してであって、私からミクリ先輩に向ける恋情によるものではない。

いつ頃だろう、私の恋情が憧れになったのは。今となってはこの素敵な先輩に向ける私の気持ちは、憧れへと変わっていた。いや、きっと初めから憧れだった。

もし私のあの告白が邪魔されずに果たされてしまっていたなら、今頃こんな風にミクリ先輩の横に立つ事はなかっただろうし、ましてあの感情が憧れであると気付く事もできなかったのだろう。そう思うと邪魔されてきっと正解だった。


…………。


ん?あれ、これじゃあ、あの吸血鬼に出会ってよかったと言っているようなものじゃあないのか。


あれっ?
(無し無し!)
(ノーカン!ノーカン!)





110713
ミクリ先輩はお昼の放送で
クラシック流しそうなイメージ…




あきゅろす。
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