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ごっこ



「今日はダイゴ先輩にあげたいものがあります!」

「え?」


いつもの帰り道、鞄を漁りながらそう言ったらダイゴ先輩が素っ頓狂な声を上げてこちらを見た。


「じゃん!チョコレートケーキです!」

「え!」


可愛いらしい箱に収められたチョコレートケーキを差し出すとさらに驚かれる。


「遅くなりましたけどテストお世話になりましたー。」

「え、わざわざ?」

「……、」


箱を押し付け、わざとらしく頭を下げてみたら先輩はやっぱり驚いたまま言った。まあ、勿論彼氏でもない(実質の意味で。)男子にわざわざなはずはなく。


「…実は家庭科の授業で…」


正直に言うと、先輩が少し眉を顰めた。


「余りもの?ってこと?」

「そんなことないですよ!これと私の分だけです!」

「……へえ。」


言いながらダイゴ先輩が少しだけ口角をあげた、気がする。けれどその表情がなんだか複雑で、私にはどんな感情でそうなっているのか分からず、困惑した。表情だけではない。先輩の言動、行動、思考、それらはいつも私には理解出来ない。難しいのかもしれないし、あるいは単純過ぎるのかもしれない。…どっちにしても分からない事に変わり無いから考えるだけ無駄だけど。

そう思ってから、はっとする。そうだ、


「あ!甘いの平気ですか?」


食べ物の嗜好を知らない事に今更気付いて言ってみたが、ダイゴ先輩は緩く首を振った。


「うん、平気だけど…チョコケーキでなんで怪我?」

「……。」


私にとってとてもとても痛い質問である。私の左手を見つめる先輩の視線も痛い。


「チョコを刻んで溶けやすくしたんですけど、…なれない事はするもんじゃないですね。」


手を少し持ち上げて見た左指の絆創膏は、血の痕が少しだけ滲んでいた。もう完全に血は止まっている。


「僕、そっちも欲しいな。」

「へ、そっち、って?」


脈絡ない、いや文脈はあっているように聞こえたけれど、それでもその言葉が理解できなかった。だから思わず首を傾げると、先輩が徐に私の左手を取った。



「 こ っ ち 。 」




先輩の目が細く嗤う。私の身体がぞくりと粟立った。鋭い眼光が私を射ぬいて逃がさない。

どくり。血が巡る。どく、どく、どく。頭が心臓になったように、耳元でポンプされる血液の音が響き続けている。

べろり。ふいに、舌が指を撫でた。絆創膏一枚隔てたその下の傷が、疼く。舌のすぐ横に見える鋭い犬歯が光っていた。

吸血鬼が、ここにいる。

そう分かってはいるのに、怖くはなかった。いや、多分怖いとは思っているはずだけど、それ以上の何かがそれを飲み込んでいる。どく、どく、どき、どく、どき、どく、どき、どき。ふいに、手と手が離れた。

なん、


「なーんちゃって。びっくりした?」


明るい声に顔をあげると、そこにはしたり顔の先輩。しまった、やられた、ああもう、くそうくそうくそう!


「……っ変態!!」


怒りのままに思い切り右足を踏んずけてやると、先輩は大きく飛び跳ねた。「いったっっっ!!!」ざまあみろばあか!何度も何度もぴょんぴょん飛び跳ねる様は何とも滑稽で面白い。はずだった。でも私はちっとも笑えない。だって、他の事で頭がいっぱいになっている。


(今、何を思った私…!)


離れた手に抱いた感情は、私にとって持て余すもの過ぎて、頭が混乱していた。違う、違う。全否定させて欲しい。

だめだ、ほだされてはいけないよ私!こいつは吸血鬼なんだから!


吸血鬼ごっこ
(本物による嘘っぱちの)
("ごっこ遊び"。)





(……)
110422
ひっさびさ過ぎて
すいません…!
これからがーっと
終わったらいいなっ




あきゅろす。
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