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そうだね


「どうだった?テスト。」


見慣れた背中を見付けて足早に捕まえる。すると見慣れた彼女は振り返って笑った。


「ばっちりです!…私にしては!」

「しては、ね。」

「…しては、です。」


笑ってそう言うと、名前ちゃんはわざとらしく唇を尖らせる。


「ともかく、先輩のおかげです。ありがとうございました。」

「いい先輩でしょ?」

「いい先輩はそんなこと自分で言いませんけどね。」


大げさに肩を竦めてみせてから再び口を開いた。


「テスト一、二年終わり一緒だったんだね。」


学年により取っている教科数も、また同じ教科でもテスト日や時間は違う。だからテスト期間中はこうして偶然でもない限り会えなかったのだ。毎日下校を共にしていたので、どうも期間中は物足りない気分だった。


「みたいですね。あ、さっきミクリ先輩に会いましたよ。」

「ミクリに?」

「はい、校門で。」


ふうん、なんて適当に流しておく。ミクリにはテスト前に散々邪魔をされたので、名前ちゃんの口から聞くとその時の苛立ちが蘇る気がしていい気はしない。早急に話題を変えてしまおう。


「そういえば再来週体育祭だよね。」

「あ、そうですね!」


ぱっと名前ちゃんの顔が明るくなった。わかりやすい。名前ちゃんは随分体育祭を楽しみにしているようだ。始まればなんだかんだで付き合うし楽しいのだけど、僕はどちらかと言うと面倒くさいと感じる側なので始まる前からこんなに楽しみにしている彼女が少し羨ましかった。多分、一年生だからという部分もあるんだろうけれど。


「あ、でも私体育委員だからちょっと大変なんですよー。コーンとか運んだりしなきゃいけないし…。」

「そうだね。体育委員は大変かもね…。でもイメージ通りだよね、体育。」

「…いい意味で受け取って置きます。」

「…いい意味だよ。」

「先輩は?」

「…保健委員。」

「…っ!!!っく、…っ!!」


僕の言葉に予想通りの反応をする名前ちゃん。必死に噴き出すのを堪え、僕から顔を逸らす。とんでもなく失礼だ。名前ちゃんがあまりにも笑うものだから、何だか恥ずかしくなって頬が熱くなる。


「に、似合わな、過ぎる…」

「…わかってるけど、…ちょっと失礼過ぎるよ。」

「す、すみません…はあ。」


謝りながらようやっと名前ちゃんが呼吸を整えた。それから余計な一言を添える。


「ついでに…体育祭もイメージじゃないです。」

「…じゃあついでにもっとイメージじゃないこと教えてあげようか。」

「え?」


ちらりと横目で名前ちゃんを窺うと、目を丸くして僕を見ていた。それに笑いそうになるのを堪えて、恐らくまた笑うであろう事実を打ち明けてみる。


「実は小学校で応援団一回やったことあるよ。」

「……ッ、……!!!せ、」


先輩の応援団、うける。やばい。何とか聞き取れた言葉は予想そのものだった。名前ちゃんが笑いすぎて歩けそうにないほどふらふらしたので、その場で止まる。…予想はしていた。けど、…、ちょっと笑いすぎじゃないか。


「…ちょっと。」

「すいません…ふふ…」


はあ。止みそうにない笑いに溜息を一つ。仕方ない、話を変えてしまおう。軽く咳払いをしてから、名前ちゃんを釣れそうな話題をぶら下げてみる。


「その時団長だったのミクリなんだよね。似合わないけど、女子の推薦とあの気質だから。」


基本的に悪い方にでなければ目立つことに躊躇のないミクリは、小学校時代あっさり推薦を受け入れた。やってみれば似合わないと言うほどではなかったけれど、他の団長はクラスのガキ大将っぽい子が多かったからやっぱり浮いていたのを思い出す。…あ、しまった。話題を変えたのに結局ミクリに帰着してしまった。僕らが共通で知っている人物が少ないので仕方ないといえば仕方ないのだが、やはり気に食わないので再び逸らすことを考える。が、それより早く再び呼吸を整えた名前ちゃんが釣れてしまった。


「あ、それ知ってます。」

「え?」


でもその答えは予想に反したもので、思わず間抜けな声を漏らしてしまう。


「私もその時応援団やってましたもん。緑ですよね。」

「!」


僕らの小学校の応援団とは、四、五、六年生からの数人ずつで形成されるもので、赤、緑、黄色組の三つに別れている全校生徒をそれぞれ運動会の期間中まとめる役だ。運動会のプログラムには応援という演目もあり、その練習は教師は一切介入せず、応援団が中心に進行する。となると、応援団内にはある程度のコミュニケーションが生まれるので、同じ時期にやっていれば覚えていてもいいはず。…つまり、僕も緑組だったのだ。けれど、彼女は知らないと言う。いやらしいことを言うと、僕は小学校時代ミクリと同様にそれなりに名前が知られていたから、同じ時期に応援団をやっていて知られていないなんて信じられなかった。でも僕も名前ちゃんを覚えていなかったから、もしかすると本当にあまり関わりも無く、彼女も僕に興味がなかったのかもしれない。だからあえてそこは深く考えず、何でもないように言葉を返す。


「そうだよ。…僕もその時緑だったから、実は話したことあるかもね。」

「え!うそ!覚えてないです!」

「…僕も。…まあお互い様だね。」

「なんか、面白いですね…。」

「だね。」


名前ちゃんが納得したようにうんうんと頷く。気持ちはよくわかった。こう、自分の知らないところで起きたことが繋がった、みたいな、何とも言えないしっくり感だ。幼稚園のアルバムをみたら今の友達が隣のクラスにいた、とかいうそういう感覚。十分気持ちに浸り終わったのか、名前ちゃんが僕の方を見て再び会話を再開させた。


「先輩、今回何組ですか?」

「えっと、白だよ。」


そう言うと名前ちゃんは破顔する。それから勿体ぶる様に少しだけ間を空けて、


「じゃあ一緒ですね!がんばりましょう!!」


何故だか、どうしようもなく恥ずかしかった。


そうだね
(何でもないように言えただろうか?)
(分からなかったから、視線を逸らした。)





100912
ぐだぐだしまし、た
あと、間が空いたのでどこまで
書いたか忘れてた…




あきゅろす。
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