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ならば




「そこ、漢字違うよ。」

「えっ」

「ああ、そっちもだから板書が間違えてるね。」

「あ、ああ!!…ありがとうございます!」

「いいえ。」


僕の前にはエメラルドグリーンの髪を揺らす友人と、その友人にミスを指摘されて微笑む彼女。ああそう言えば彼女は彼が好きなんだっけ。教科書の字を追う目と裏腹に、耳は彼らの言葉を追いかける。ああもう集中出来ない!

…どうしてこうなったんだっけ?













「やあ。」

「…。」


名前ちゃんと待ち合わせて校門を過ぎると、見慣れた友人、ミクリがにこやかに僕に手を振った。僕らと同じく徒歩組のミクリがいるのは何ら不思議はないのだが、その胡散臭過ぎる笑みに警戒心が芽生える。


「私も図書館寄って帰ろうかな。」

「は。」


一緒に帰ろう、だとかその類だろうと思っていたけれど、ミクリが発した言葉はもっと図々しいものだった。仮にもカップルの図書館デートに割り込む無粋な輩などいるものだろうか。いや、僕らは実際カップルでは無いし、それをミクリは知っているのだけど、それでもちょっと空気読もうか。

その気持ちをひしひしと表情で訴えるが、ミクリは飄々とそれをかわし、名前ちゃんに笑顔を向ける。


「私も家でははかどらなくて。…いいかな?」

「い、いいですよ!」


ああ、頬を染めた彼女がこんなにも憎らしいのはどうしてか。















…思い出して更に苛ついた。こちらを横目で見て微笑むミクリは確信犯以外の何ものでもない。

名前ちゃんの頬は先ほど同様に、ほんの少し紅潮している。…面白くない。この勉強会を提案したのも、名前ちゃんを図書館に誘ったのもこの僕だ。邪魔者も除け者もミクリ、君なんだからね。

なんて、まあ勿論言えるはずもなく。


「ダイゴ。」

「…何だい。」

「いや、それは私の台詞だよ。穴があきそうだ。」

「?」


わざとらしく肩を竦めるミクリ。名前ちゃんはミクリの言う意味がわからないらしく、首を傾げた。えらい、君はちゃんと集中していた訳だ。ミクリも見習ったらどうだろう、僕の視線なんか気付かないように。


「…、別に…何もないよ。」

「そうかい?」


しかし冷静に考えると、最も集中していないのは明らかに僕だ。それにここで苛立ちを露にすればそれこそミクリの思う壺。僕は名前ちゃんに醜態を晒すことになるだろう。ただでさえ名前ちゃんには意地悪い部分だとかを知られてしまっているのに、除け者だのなんだの騒ぎ立てれば、意外と子供っぽいのまでバレてしまう。


「私には言いたいことかあるのだけど。」

「……何。」


微笑むミクリを睨むように見ると、彼は徐に僕の開く教科書を指差した。


「そこは、範囲外だよ。」

「…、……、っ!」


僕の開いたページは、索引ページ。勿論テスト範囲のはずはない。急激に頬が熱くなる。


「し、調べてただけだよ。」

「そうかい、それは、ごめん。」

「自分の手元に、集中しなよ。」

「それも、私の台詞なんだけど。」


名前ちゃんに目をやると、少しだけ肩を揺らしていた。更に頬が熱くなる。


「ちょっと休憩しましょうか。私、ココア買ってきます。…先輩達は何かいります?」

「私はいいよ。」

「僕、コーヒーで。」

「分かりました。」


名前ちゃんは僕の顔を見て、笑う。どうやら思う以上に僕の頬は赤いらしい。

スカートが揺れるのも自販機も、ここからよく見えた。名前ちゃんの軽快な足取りから、機嫌がいい事が伺える。

ねぇ、君は誰とここに来たのか覚えている?ミクリの隣でにこにこしているなんておかしくないかい?

僕だよ。君と勉強しに図書館へ来たのは僕で、君の隣に座るべきは僕。君がにこにこするのは僕の隣だよ。


「格好悪いね。」

「…うるさいな。」

「嫉妬なんて、余裕がなさすぎる。」

「嫉妬?何だいそれ。僕はただ、」

「除け者にされるのが気に食わないだけ?」

「そう、わかってるならわざわざ言わないでくれない?」

「まあまあ、そんなに怒らないで。」


余裕たっぷりといった様子で微笑むミクリが憎らしい。僕で遊ぼうなんて、何様のつもりだろうか。子供っぽい僕を面白がってつついたこと、どう償わせよう。


「君がその気なら…」


よろしい、ならば
(席替えしよう。ミクリと僕が。)
(え、)





「あれ…?」
「席替えしたんだ。ほら、早く早く。」
100814
吸血彼氏は子供っぽいダイゴを
プッシュする話です。




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