いじめる
「遠回りじゃない?」
さくさく、砂利や木の葉を踏みしめながら言った。ナマエちゃんは僕らの前に揺れる2人分の影から僕に視線を向ける。
「ほら、バイトコガネって言ってたよね。」
「ああ、…遠回りっていうか寄り道です。」
彼女の言う通り、コガネからキキョウに帰るにはエンジュを通る必要はない。じゃあどうして?その疑問は口にしなくてもよさそうだ。すぐにナマエちゃんが言葉を繋げた。
「私のゴースト、エンジュの子なんです。だからかエンジュが好きみたいで、バイトの帰りに勝手に散歩を始めちゃったのが最初ですね。それからちょっと寄るようになったんです。」
「そうなんだ。」
そういえば先程まで直ぐ近くにいたゴーストの姿が見えない。彼女が言うに、僕がいる間はゴーストに好きにしていいと言ったらしい。そんな彼(予想通り男の子だった…。)の性格は気紛れ、個性は悪戯好きらしい。
「だから偶にマツバさんとすれ違うこととかあったんですよ。」
「え、そうなの?」
「あ、えっと、そうなんですけど、えーっと…っ」
「はは、まあここ一本道みたいなものだからね。」
あくまで偶然だと言いたいのだろう。つけられてるだとかいうのには敏感な方なので、偶然でないならきっと僕が気付いている。よって疑う余地もないから、とりあえず慌てるナマエちゃんを宥めた。それに言われてみればなるほど彼女を見たことがあるような気がする。
「ゴースト、本当はキキョウでゲットするって手もあったんですけどね。」
「そうなの?キキョウもいるんだ。」
「はい、マダツボミのとうに夜とか結構出るみたいですよ。」
「やけたとうじゃ怖くなかった?」
「怖かったですよー!」
すっごく!なんて自分を抱くように腕を抱えるナマエちゃんに疑問が浮かぶ。やけたとうは足場が悪いし、床が底抜けることもある。ひふきやろうとかいうトレーナー達が少しうろうろしているけれど(不謹慎だと思っていたが、彼らは自分たちの扱う火の恐ろしさを刻み込むため訪れているらしい。神聖な塔は今はひふきやろうの聖地としても知られている、のだろうか。)、常に人気はなくおどろおどろしい。まあ一種のホラースポットのようなものだ。
その点、マダツボミのとうはお坊さんが修行しているので足場も悪くないし、人気だってある。
「じゃあどうしてわざわざやけたとうで?」
「ハヤトく…、キキョウの」
「キキョウのジムリーダーのハヤトくん?」
「はい。ハヤトくんがゴースなんかゲットするなとか邪魔してきたんですよ!もう本当困ります!」
「ハヤトくんが?」
彼女の言葉に驚いた。ハヤトくんのイメージが年齢相応以上に落ち着きのある青年だったから。さらに驚いたことに、ナマエちゃんはハヤトくんとどうやら幼なじみらしい。同じ町に住んでいるのだからおかしいことはないのだけれど。
「私、初めに友達に助けてもらってメリープゲットしちゃったんです。」
「…あー、なるほど。」
「それ以来たまーに意味わからないことするんですよ。ゴーストタイプよりひこうタイプをとれとか。」
ハヤトくんはひこうタイプの使い手だけれど、その話を聞く分には(…いや、聞く前からか。)どうやら相当重症らしい。思わず苦笑した。
「それにしても私のゴースト、ゴーストになってから随分経つのにまだ進化しないんですけど…」
「………。」
さらりと間違いを言ってのけたナマエちゃんに言うべきか迷ってから言葉を繋ぐ。
「……あのね、ナマエちゃん?」
「はい、何ですか?」
「えっと…ゴーストは、誰かと交換しないと進化しない、よ。」
そう言ってからナマエちゃんの顔を盗み見ると、もちろん目は真ん丸。防御力が上がったのではないだろうか。
「本当に?」
「…本当に。」
「……う、嘘…」
防御力の上がった目が少し潤んだけれど、
「嘘じゃない、よ。」
はっきりもう一度否定しておいた。ナマエちゃんは努力がとか言いながら頭を抱えている。その様子が可笑しくて、また僕は開口した。
「そんな勘違いしてる人、初めて会ったかも。」
「ええっ、嘘っ」
反応が妙に楽しい、僕が言葉を落とす度に彼女の表情がころころと変わる。
こんな会話、何時ぶりだろうか。幼い頃仲のいい友達として以来かもしれない。つまり僕と彼女は、
いじめる事が出来る程
仲良くなりました。
(…とはまだ言えないけれど、)
(他人ではきっと多分もうない。)
100516
ハヤトギャグ臭い
マツバうさん臭い
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