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人柱だなんて




「久しぶりだな、マツバ。」

「…ミナキ。」


エンジュシティを通り掛かると、たまたまマツバを見付ける。実はチョウジタウンで買ったお土産があったので今渡してしまおうと声を掛けた。真っ暗なジムに行かずに済んでよかったと思ったのだが、どうやら本当によかったらしい。彼の顔も空気も酷く暗く、ジムにいたら同化してしまって見付けるには困難そうだった。

まあこうなるのも仕方の無いことだ。つい先日、彼の追い求めたホウオウは彼ではない人間を認め、さらにボールにまでおさまってしまったのだ。


「どうしてエンジュに?」

「アサギに行くのにな。今度はヒビキがカントーに行くらしいから先回りする。」

「…本当にストーカ「スイクンのためだ!」


落ち込んでいてもやはり私には辛口気味なマツバに、とりあえずいつも通りに返す。それから、いかりまんじゅう(24個入)を押しつけた。


「チョウジタウンの?」

「そうだ。いつまでもそんな顔をしていてはジムのトレーナー達に気をつかわせるぞ。」


押しつけたそれと私の顔を交互に見やるマツバは目が点だ。私が励ます等予想していなかったのだろう。


「…知ってるのかい?」

「…まあな。」


小さく言ったマツバに倣い、小さく返した。マツバの眉根が寄せられる。


「誰に聞いたの?」

「誰…、と言われると、」


今度は私の眉根が寄せられる番だった。誰、と言われると答えは難しい。坊主達が見られたことに興奮していた話も聞いたし、偶々見た町の人間の噂も聞いたし、舞妓さん達の話も、…あ。


「ヒビキ?」

「えっ。」


確かはじめは彼がホウオウをボールから出したのを見てしまったことだ。信じられずに凝視してしまい、舞妓さん達の話、町の噂、坊主達…と思い出した順の逆が知ったルートだったと思う。が、どこに驚いたのか、マツバの少したれた目は恐らくそれの限界の大きさまで開かれていた。


「ヒビキくん?そんな訳ないだろう。ミナキ、ストーカーし過ぎておかしくなったんじゃないのか。」

「いや、マツバこそ何を言ってる?」

「ナマエちゃんからじゃないのか?話したのは昨日の今日だし…」

「ナマエ?」


何だ、何かが噛み合わない。そう思って顎に手をやると、目の前のマツバは明らかにしまった、という顔をする。どうやらホウオウのことでは無いらしいと私が察したと同時、マツバはいかりまんじゅうを抱き締めたまま踵を返した。


「じゃあ僕は修行に戻、」

「ナマエと何かあったのか。」

「無いよ。」

「嘘吐け!」


背中を向けたまま即答するマツバだが、絶対に目は泳いでいるだろう。私達はだてに友人と言うわけではないのだ、一応。腕を掴むと面倒臭そうに振り返ったその目、ほら泳いでいる。誤魔化す様にマツバは私の腕を払った。


「ナマエと何かあったんだろう。」

「無いって言ってるだろう、はなしてくれ。」

「そうか、じゃあナマエに手を出しにキキョウに寄って行きたいんだがどう思う?」


勿論、私は彼女を好きな訳ではないので冗談だ。以前に彼女へのマツバの態度は見ているし、マツバが彼女を好きな事は知っている。もしかしたら付き合っているのかもしれない。だからこう言えばきっと、何だかんだ素直なマツバは期待通りの反応を返すはずなのだ。"ふざけるな"だとか"止めろ"とか、もしかしたら冷ややかな視線か。とにかく良しと言う返事は絶対に無いことだけは確かだ。が、マツバからの返事は、


「別に、どうも思わないよ。好きにすればいいだろう。」

「は。」

「…は、って……僕はナマエちゃんの彼氏でもないし。」


あろう事が返答は良しだった。まじまじとマツバを見ると、居心地が悪かったのだろう、苦虫を噛むように顔を顰めた。


「ナマエが好きなんじゃないのか?」

「………。」


自分で言うのもなんだが、私の予想が外れているわけが無いと思っていたし、今も思っている。論拠を挙げるなら私が彼女をナマエと呼び捨てる度にマツバは苛立ちを募らせているように見えるからだ。証拠を挙げるなら未だマツバが私の質問を否定しないことだ。


「付き合ってると思っていた。」

「…付き合ってた、よ、…多分。」


そう言ったマツバは再び暗い顔になった。私は首を捻る。何故なら私が、第三者が見る限り二人は確実に両想いで、別れる要素や素振りを全く感じなかったからである。少し俯いていたが、再びマツバは顔を上げて言葉を零す。一応話してくれる気があるらしい。


「他の子からの告白を減らすために付き合ってたんだ。」

「……。」

「つまり言えば人柱。彼女がいたら"僕が付き合えない理由"は鉄壁になるんだから。」


驚いた。というのは、マツバがそんな短絡的なことを考えるとは思わなかったからだ。(まず、そんなにモテるのも腹が立つ。)


「まあ別に、ナマエちゃんも何かの罰ゲームで、」

「じゃあ伝えてないのか?」

「…何を?」


マツバの言葉を遮った。彼の考えはあまりに短絡的だったので、それに文句をつけたい。それに、ナマエの方にも何か問題があるようだからそれも知りたい。が、私が言葉を遮ったのはそれらをするためではなく、一言言いたい、確認したいからだ。


「ナマエに、好きだと伝えたか?」

「…何言ってるんだ。」

「伝えてないのか。」

「だって、僕は別に好きじゃ…」

マツバの目はまた泳ぎだす。捕まえて、前を向かせるのは友人の役目ではないか。私達はだてに友人と言うわけではないのだ、一応。


「嘘だ。好きじゃないなんて、」


人柱だなんて
そんな嘘吐くな

(酷いその顔、)
(自分で鏡で見て来い)





(好きで好きで仕方無い酷い顔。)
100604
面倒な友人はマツバさんの
マブダチだと信じてる




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