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許さない




過去に一度、やけたとうに立ち入ったことがある。そこは薄暗いし、床がギシギシとしきりに悲鳴をあげるし、正直いい気分であるける場所じゃあなかった。その上野生のゴースに驚かされるし、床は抜けるし、最悪な思い出はあげたら切りが無い。

けれどただひとつだけ、そこに行ってよかったと思えることがあった。マツバさんに会ったことだ。マツバさんはエンジュジムのジムリーダーで、とても優しい人だった。私がゴースが欲しくて入ったことを知ると捕獲したその子をくれたし、それから私をとうの外に連れ出してもくれた。ちなみにそのゴースは5つ下の従兄にあげてしまった。だって私は彼のためにゴースを探しに行ったのだから。あげる際、とてもとても惜しくて仕方無かったけれど、解釈を改めると彼のおかげで私はマツバさんに出会えた訳だからそのお礼だと思えばなんてことは無い代価だった。

あれから、もう二度とあのとうには立ち入るまいと思っているけれど、マツバさんにはもう一度会いたくて、彼の姿をエンジュシティに行く度探してしまうのだ。

そしてついこの間、私は彼を見つけた。見つけてしまった。

見つけた彼は楽しげに可愛いあの子と歩いていた。苦しくて苦しくてどうしようも無い程息が詰まった。だけど、それ以上に私を侵食したのはどうしようも無い、怒り。

だって私は彼女を知っていた。私の住むコガネシティで、彼女を、知ってしまっていたのだ。彼女の事を知りさえしなければ、私はそれを仕方が無いと諦められるはずだったけれど、知ってしまっているんだからあっさり諦められるはずはない。前置きしておこう、私が知る彼女とは人柄だとか家柄だとか、そんな面の情報ではない。あえて言うなら点の情報である。だからきっと彼女は私のことなんて知らない。

が、私は確かに彼女に怒りを覚えている。それに十分なだけの理由が、点の情報にはあるのだ。

その点の情報とは、彼女がマツバさんを好きではない、それだけのことである。

そう、彼女はマツバさんを好きではないのだ。好きではない彼女がマツバさんの隣に並ぶ、ましてやあそこで抱き締められているだなんて、そんなことあっていいものか。彼を誑かしているに違いない。だから私は絶対に、


許さないんだから
(好きな人が騙されている、)
(その事実を。)





(私に振り向いて
くれなくても、いいの)
100529




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