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好き




「はあ。」


ようやく、すっきりした。

やはりバトルというのは気分がいい。いつも通りナマエちゃんとバトルして、ベンチに腰掛け溜め息を吐いた。


「マツバさん。」

「ん、なに?」


僕にならって、ナマエちゃんが隣に腰を下ろす。


「……。」

「……?」


じっと膝に当てた手を見つめ、ナマエちゃんは数秒動きを止めた。


「マツバさん、」

「?」

「どうかした、んですか?」

「…え?」


顔を上げた彼女は、戸惑いながらそう言った。一瞬、今度は僕が動きを止める番だった。だって僕は彼女に悟られるような行動は一切取った覚えはない。


「…どうして?」

「…いつもと、少しバトル、が…」

(バトル、ああ。)


すとん、今度は妙に腑に落ちて参った。そういえば僕が指示する度に、ゴースもゴーストも、ゲンガーさえ僕にちらりと視線を寄越していた。つまり、そういうことだったんだ。ナマエちゃんに対して、バトルですっきりしたのにまたもやもやさせるなんてと思ったけれど、きっとそれは間違いなんだ。よく言う、嫌なことをお酒で紛らわすことと一緒。僕にとってそれがバトルになってしまっていたんだ。


「…そう。」

「ご、ごめんなさい、その、」

「いや、ありがとう。」


勘違いだったらと焦るナマエちゃんに笑んでおく。彼女のおかげで早い内に軌道修正がききそうだ。


「ポケモンセンター、行こうか。」

「え、あ、はい。」


立ち上がってそう声を掛けるとナマエちゃんからは曖昧だが賛成が返ってきたので、僕は直ぐに立ち上がって歩く。が、一歩でそれは止まった。

振り返ると、ナマエちゃんの指が緩く僕の服の端を摘んでいる。どうしたのか、そう問おうと首を傾げたがナマエちゃんは僕の顔を見ない。そして一呼吸置いてから彼女が呟いた言葉はあまりにも突拍子のないものだった。


「嘘、です。」

「…?」

「私、…、」


少し擦れた声で必死に言葉を紡ごうとする彼女。聞かない理由もないので再度ベンチに腰掛け、体ごとナマエちゃんを向き聞く姿勢を整えた。


「わ、私、傍にいられる、だけで、いいなんて、嘘で、す。」

「……。」


途切れ途切れに呟くナマエちゃんの言わんとすることが理解出来ず、何度もその言葉を脳内でリピートした。ああ、なるほど。

"ほんの少しだけ近い所にいられるだけでいいんです。"それは、僕らが付き合う事になった日にナマエちゃんが言った言葉だ。そして今彼女はその発言を嘘だと、撤回したのである。

どういう意味か。再度首を傾げると、ナマエちゃんは顔を漸く上げた。


「マツバさんが嫌な気分の時は、愚痴くらい聞きたい、です。」


ゆら、ナマエちゃんの目が潤んでいる。零れそうな涙が、愛しい。そう、可愛いじゃない、愛しいんだ。自覚してしまえばなんてことは無い、どうして僕は頑なに彼女を受け入れる事を拒絶していたんだろう。気付けばこんなにも彼女を必要としていたのに。

僕の服を掴んだままのナマエちゃんの指を解く。彼女の顔色は一瞬で真っ青になったのがわかった。ごめんなさい、そう言おうとしたんであろう唇が開口しきる前にその腕を強く引く。逆らうことなく僕の胸に収まった彼女を出来るだけ優しく包んだ。


「マママツ、」

「じゃあ、聞いて貰おうか、な。」


きゅう、僕の胸にあたる彼女の拳が強く握られる。妙に緊張しているな、なんて思ったけれど僕の手はじっとりと汗ばんでいて、おまけに心臓は早鐘の様に脈打っていたので苦笑するしかない。


「だけど、きっと情けない顔になるから、見ないで欲しいんだ。…いいかな?」

「い、いです。」


そんな、ただ抱き締めたかっただけという理由を隠す建前に、ナマエちゃんは律義に頷く。頷いた時に揺れた髪が僕の手を撫でて、くすぐったい。


「僕は、」


そう口火を切ると、ナマエちゃんは僕が引いたままにベンチについていた腕を、片方の手が既にそうしているように僕の胸元に置く。表情は見えないけれど、きっと真剣に聞いてくれようとしているんだろう。

情けない顔だなんて言ったけれど、僕がこれから話すのはただの愚痴でしかないけれど、それでも思わず口元が緩んでしまう程に彼女が


好き、過ぎる
(どうしようもなく、)
(好き、好き、)



100529
本当はもっと長かったんですが、
マツバさんの心境が分かる程
優れた人間じゃ
ありませんでした、よ!^^




あきゅろす。
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