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感じる




今日はコガネ百貨店に行ってみようと、自然公園を落ち葉を踏み鳴らしながら早歩き。しかし、視線の先に見慣れた子を見付けて速度を緩める。勿論それはナマエちゃんで、彼女は少しふらつきながらこちらに向かってくる。向こうが俯いてるものだから、中々こちらに気付かないようだ。時間は丁度お昼時を過ぎた頃。今日はバイトのシフトが早かったのだろうか。


「あれ、ナマエちゃん。」


まるで今気付きましたと言うような自分の言葉に自嘲する。が、顔を上げたナマエちゃんに直ぐに頭が冷えた。


「あ、マツバはん。」

「…風、邪?」

「あい。貰っちゃいまいた。」


真っ赤な顔をしたナマエちゃんが力なくへらりと笑む。鼻が詰まっていて、上手く発音できないらしい。ずぴ、それに気付いたナマエちゃんは照れながら鼻をすすった。


「大丈夫なの?無理してバイト出た?」

「大丈夫です。先輩が心配して早退させてくれました。」

「……大丈夫そうじゃないけど。」


放って置くのはどうも不安なので送っていくことにする。その旨を伝えると、予想通りナマエちゃんは慌てて首を横に振った。


「そんな…!私は本当に大丈夫なので!」

「僕がそうしたいだけだから。ほら、行こう?ここにいたら酷くなるばっかりだよ。」

「え、マ、マツバさん!」


遠慮し続けそうな彼女の言葉をこれ以上聞くつもりはないので、先に歩を進める。するとナマエちゃんは納得のいかない顔のまま仕方なく追ってきた。


「……。」


その距離は本当に短い距離だったし大した速さでもないのだけれど、ナマエちゃんはひどく苦しげに息を吐く。その上足取りもやっぱり覚束無い。飛行タイプのそらをとぶを覚えたポケモンを持っていたらよかったな、なんてあり得ないことを思ったり。

そこではた、と気付く。そうだ。


「ナマエちゃん、はい。」

「へっ?」


ナマエちゃんに背を向けてしゃがむと、彼女は素っ頓狂な声を上げて固まる。


「ほら、あんまり歩くのは体に障るから。」

「だ、だからってそれは、ちょっと…!」


固まってしまう彼女の気持ちはわからないでもないが、ゆったり話しながら歩くよりずっといいと思うので譲るつもりは無い。


「ナマエちゃんが乗るまで、僕はここを動かないからね。」

「そ、そんな横暴れす…!」


ずび、ナマエちゃんが再び鼻をすするのを背中で聞く。それからまた再三ナマエちゃんが鼻をすすったので、さすがに呆れただろうかと振り返ろうかとした、時。


「お願い、しま、す。」


きゅう、ナマエちゃんの腕が僕の首に回って、体重が背中にかかる。熱のせいか妙に熱い吐息と、左横で一つに束ねた髪がさらりと僕の首筋を撫でた。


「ん、じゃあ行こうか。」


自分で言ったくせに、この状況にとても緊張してしまう。それを隠すために何でもない風を装って立ち上がり、キキョウに歩を向けた。

さくさく、どく、さく。

落ち葉を踏む音に混じって、僕の心音が響いていないか怖い。だからわざと落ち葉の多いところを選んで足を運んで行く。自分で言いだしたこととはいえ、自然公園を出るときの係員さんだとか、道路で対戦相手のトレーナーを探すじゅくがえりくんだとかの好奇の目が本当に恥ずかしかった。

そんなわけでキキョウに着くころには僕は心身共に疲れ果てていた。が、キキョウにくればもうゴールは近い。あとはナマエちゃんの家を探すだけである。


「ナマエちゃん、家の場所聞いてもいいかな?」

「………。」

「…ナマエちゃ、ん?」


耳を澄ませると規則的な呼吸が聞こえてきた。…勿論、後ろから。


「ナマエちゃん、ナマエちゃん、…まいったな…。」


この状態で寝てしまうとは、相当具合が悪いのだろう。そっとしておいてあげたいけれど、僕は彼女の家を聞きださなければならない。さあどうするか。

…僕としてはこのままうちに連れて行ってしまってもいいのだけど。なんて、冗談めいた台詞を脳内でそっと呟いてから、


どうしようもない
恥ずかしさを感じる

(馬鹿じゃないのか、)
(僕は。)





100525
マツバさんにおんぶしてもらい隊
たったそれだけの話。




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