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繋ぐ




「はあ…」


吐いた溜め息が白くなる季節まであと少し。落ち葉を踏んで歩くと、さくさくと軽い音が道に響く。

あれから、つまり微妙な空気で別れた先週の火曜日以来、ナマエちゃんと5日間会っていない。何だかどうしようもなく気分が重くて、暗いジムの中何度かポケギアに手を伸ばした。だけどナマエちゃんのバイトがいつ入っているのか知らないし、何より、何の用事もないので掛けるのを躊躇った。仕方なくミナキに掛けたりした訳だが、忙しいと切られてしまった。(もう掛けてやるものか。)

とにかく、憂鬱だった。それもどうしようもなく。


「はあ…」


もう一度溜め息を吐く。なるべくいつもの時間を歩いているにも関わらず5日も会わないだなんて、避けられていたらどうしよう。

そこまで考えて、止めた。これじゃあまるで僕はナマエちゃんに会いたくて仕方がないみたいだ。まあ今までかなりの頻度で会っていたし、ナマエちゃんのことは純粋に友達として好きだ、だから会いたいのは当然だし、その感情は素直に認めよう。けれど───…けれど?けれどなんてただ友人だと思っているならつける必要はないだろう。

二転三転、迷走しきった思考は、結局ただ電話を掛けたらいいじゃないかという結論に落ち着く。色々と気になることも途中途中挟んでいたが、それは無視することにした。

カシッ、ポケギアの発信ボタンを押した。


「………」


この時間にバイトがあるかはわからないが、着信さえ残しておけば電話がくるかもしれない。電話の奥で呼び出し音が響く。


「はい。」

「あ、」


こんばんは。電話に出たナマエちゃんととりあえず挨拶を交わすつもりだったが、その言葉は零れることなく目の前の光景によって喉に押し戻された。


「ゲゲゲゲっ」

「……。」

「?もしもし?マツバさん?」


目の前の光景とは、笑い声をあげながら横切るゲンガーと、それを追って茂みから飛び出してきたムックル。ゲンガーとムックルだなんて、当然思いあたる人物は1人だけだ。


「ナマエちゃん、今いつもの道歩いてる?」

「え?…あ!マツバさん!」


機械、そして背中越しに聞きなれた声が聞こえた。振り返るとやっぱり見慣れた女の子。揺れるスカートが寒そうだ。


「こんばんは。」

「こ、んばんは。」


ナマエちゃんに体ごと向いて、ポケギアの通話を切らないまま囁く。そうしたらナマエちゃんもそのまま返すものだから、意味もなく2人で笑った。


「偶然だね。」

「ですね。」


微妙な距離をおいたままポケギアを通して会話する。傍からみると可笑しな光景だったけれど、周りに人はいないから気にする必要はないだろう。


「最近、会わなかったね。」

「バイトのシフトがかなりズレたんです。」

「そうなんだ。」

「今、風邪が流行ってて…。」

「季節の変わり目だからね。」


そう言った途端、ナマエちゃんとの通話が切れた。僕ではなく彼女が切ったようだ。暗闇でよく見えないけるど、ナマエちゃんが怒ったようにゲンガー!と言った声のあと、至極嬉しそうな笑い声が響いた。笑い声の主は僕の前にやってきて、見下すように笑う。だから僕もにっこりと笑い返してやる。僕はこんなことで腹を立てたりしないのだ。

だって今は、


他を繋ぐ
(電話が切れたって、)
(今は姿が見れるんだから)





(ゲンガーは不機嫌そうに
彼女の方に飛んでいく。)
100525




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