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たてた




「好きです、付き合ってください。」


聞きなれたお決まりの台詞に内心溜め息。週に1、2度こんなことがある。女の子が僕の前に立って俯きながら小さな声で告白というものをしてくる。今日は2度目。1日に2度は初めてだ。

僕には今、正直女の子に構う暇がない。し、酷い言い様かもしれないが構いたいと思う女の子もいない。だからお決まりの台詞にお決まりで返すのだ、申し訳ないけれど僕は今誰かと付き合うつもりは無いのだと。


「えっと、」


大体、…また酷い言い様たが、ろくに話したこともないのに告白は安易と言うか愚直と言うか。はっきり言えば僕には理解出来ない。かと言って1度振ってしまった子がジムに何度か通ってきたりまた告白してきたり、それらにもうんざりしている。いい解決方法はないだろうか。

そして僕は目の前の女の子に目線をやって、酷いことを考えついてしまった。どうしよう。疲れ切った脳はそれも修行に身をいれるためだからそうしてしまえと囁く。


「あー…、」


僕がポロポロと優柔不断な声を溢すものだから、俯いていた彼女の目が僕を訝しげに見上げてきた。


「い、いよ。」

「…へ?」

「付き合って、も。」

「…本当、ですか、マツバさん。」


一度相手に伝えてから撤回することなど、出来るはずもない。くりくりと真ん丸くなった彼女の目が不謹慎にも可愛らしいと感じてしまった。


「ただ、」


ただ僕は彼女が好きな訳では当然なくて、最低な事に修行の邪魔をするものを片付けようとしているだけのこと。…本当に、最低だ。


「ああ、大丈夫です。修行のお邪魔はしません。」

「え、」


僕が言葉を続ける前に彼女が笑った。


「ただ、」


彼女は僕が今し方紡いだ言葉をそっくりそのまま紡ぐ。微笑む彼女が僕の思惑を知っているのかは分からない。


「ほんの少しだけ近い所にいられるだけでいいんです。」


頭の中で拍手と警鐘がけたたましく騒ぐ。扱いやすそうな子で助かった、と、こんないい子に酷すぎないか、と。

ただ疲れ切った脳みそではやっぱり、そう、としか返せなかった。



所謂節分の豆まき。所謂防波堤。

所謂、


人柱をたてたのです
(あまりに無差別で、)
(あまりに公平。)





100512
マツバさんは
きっと疲れてた。




あきゅろす。
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