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この温もりを離したくなくて




めぐる季節の中で、


い糸が、君と繋がる




―――




肌寒い季節、それでもこの気温に少しだけ心地よさを感じながら。


「ふぅ」


小さく息を吐き、澄み切った空を見上げる。

吐き出した息が白く染まり、すぐに消えるそれを空と重ねながら見つめる。


授業中にも関わらず、屋上にやってきたあたしは一人のこの空間でまったりとした時間を過ごす。


少し強めの風が吹いて、髪が靡く。


「寒っ」

「当たり前だろ、アホ」


まさか独り言に返事が返ってくるとは思ってもおらず、後ろからした声に驚き振り返る。


「一護!」


膝を抱えて座る彼女の隣に一護と呼ばれた彼も座り込む。


「またお前は授業抜け出しやがって…」


何時ものように説教をされると思い、少し顔を顰めると彼はそれを見てふと笑う。


「寒みぃならなんでこんなとこ来んだよ」

「何か…窓から外見てたら、空見たくなって」


それを聞いた一護は、彼女らしいと思いながら苦笑した。


「今日はお説教しないんだ?」

「あ?」

「だって一護、あたしが授業サボって此処くるとといっつも怒るじゃん」

「どーせ言ったって聞かねぇんだろ」


呆れたようにそう言う一護に「まぁーね」と答えれば、またさっきと同じように苦笑を漏らす。


「いっつも、こんな風ならいいのにな」


突然ぼやく彼女に、一護は顔をそちらへ向け、不思議そうな顔をする。

何が、と言いたげな彼の表情を見てくすりと笑い。


「空」


彼女はその二文字だけを口にした。


「空?」


相変わらず意味が分からなくて聞き返せば、彼女は伸びをしながらその場に寝転んだ。


「青って…好きなの。あたし」


あぁ…と、納得したように一護も顔を彼女と同じように空へと目を向ける。


「でも、オレンジも好きだよ」


空から彼女へと視線を戻せば、悪戯っぽく笑う彼女と視線が重なって。

お互い逸らせずに、ただ、見詰め合う。


「だから、ね」


何も言わない俺を無視して、彼女はまた続ける。


「一護も、好きだよ」


「へぇ…一護も好き、な…」

「うん」

「一護…?…って、あ?」


遅れて反応する彼が可笑しくて、あたしは苦笑する。


「なッ…」


意味を理解した彼が頬を紅潮させて、口をぱくぱくとさせる様を見てあたしは噴出した。


「かーわい、一護。顔真っ赤」


起き上がった彼女が俺の頬を突っつき、楽しそうにするもんだから。

悔しくて、仕返しと言わんばかりに強引に腕を引き。


業とらしくちゅ、と音を立てキスを送る。


さすがにそれには驚いたようで、目をぱちくりさせる、その彼女の仕種さえ愛しい。


「うるせぇんだよ…お前なんか隙だらけだろーが」

「好きだもん、別に隙だらけでもいいでしょ」


キスをしたって、どこか余裕のある彼女には、どうも勝てそうも無い。

暫しの沈黙の中で、俺は喉に引っかかっていた言葉を吐き出す。


「…俺も」


空へと視線を移し、そう言えば彼女は「うん?」と言って首を傾げるのが横目に見えた。


「俺も、好きだぜ」


ずっと、前からな。


頬を人差し指で掻きながらぶっきら棒にそう言えば、彼女は驚く様子も無く告げる。


「うん。知ってる」

「嘘つけ」

「あんだけガンガン見つめられれば誰でも気付くから」


くすっ、と笑う彼女に見ていた事を知られていた恥ずかしさからまた頬が少し赤みを帯びる。


「べッ、別に…ガンガン見つめてなんかねぇよッ」

「そーお?よく目合う事なんかあったじゃん」

「ッ…」


何も言い返す事が出来ず、口ごもる。


しかし、よくよく考えてみれば。


「……良く、目…合ってたって事はよ」

「ん」

「お前も俺の事見てたって事だよな」


今度は俺が悪戯っぽく笑ってそう言えば、珍しく彼女の表情が変わった。

慌ててふいっと逸らされた視線に気付いて、思わず笑みが零れる。


「文句、ある?」


背けられた顔がもどかしくて、彼女の顎に手をやり強引に顔を自分の方へと向かせる。


「…お。照れてる」

「う、っさい…なぁっ」


指摘された事で薄っすらと赤かった彼女の頬は、益々赤くなる。


「すげ、可愛い」


ニッ、と笑って、また彼女にキスを一つ落として。



「今日から、お前は俺のモンな」



冷たい風が吹き、少し震える体を抱き締めてやれば。


「…やだし、ばぁか」


そんな事を言われ、照れ隠しから出た言葉だとしても、ムッとして。


「あ?先に好きっつったのお前だろーが」

「えぇ好きですよ、好きです。でもだからって一護のモノになんのとは別っ」


俺の胸に顔を埋めてそう言う彼女はやっぱりどうしても、愛しくて。


「だったら、離れろよ」


拗ねたようにそう言って、彼女の背に回していた腕を離す。

それでも彼女は動かない。


「離れねぇんだな?」


確認するようにそう言っても、彼女は何も言わないで、ただ俺の胸に顔を埋め、きゅ、っとセーターを握る。


「無視か、コラ。何か言わねぇと肯定って取るぞ」

「…うそに決まってんじゃん。一護のモノになってあげてもいーよ、」


やっと顔を上げた彼女の顔は、少し赤い。

その表情を隠していた事に気付いて、勝ち誇ったように俺は笑む。


「離さねーからな。絶対」

「えー」

「えーってなんだよ、ったく。素直じゃねーな」


溜息を零す一護の胸にまたもぞもぞと顔を埋めて。


「それで、離したら…怒るからね」

「離さねぇよ…何度も言わせんな」


こんなにも愛しいお前を離してやれる自信なんかこれっぽっちもねぇんだ。


小さな彼女の頭を撫でて、その髪にもキスをして。



あー…俺、まじ末期だな。

ここまで好きんなってたのは、ちょっと自分でもビックリだが。



「…好き、一護」


小さく洩れたくぐもった声を聞いたら、どんくらい好きだとか、そんなのどうでも良くなって。

今は、ただ。





(離れたく、なくて)


ただ、君の名を呼んで。

愛の言葉を囁く。



−−−

こんな寒い時季に普通の人屋上行かねっすよね・爆



あきゅろす。
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