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「電車に乗ってどこか遠くにでも行きましょうよ」とお妙が年相応のはしゃいだ声で言うもんで、俺としては面倒くせーし近場でいいじゃんという心境ではあったのだけれども、お妙という女はいつも自分の思う通りにいかなければ納得のいかないタチであり、実際に周りを思い通りに動かしてしまう不思議なパワーを持っていて、まあ俺は彼女の笑顔に反射的にうなづいてしまったわけで、がたんごとんと微動しながら景色は流れてゆくわけで。

「すまいるが見えるわ」「お菓子食べます?」「いい天気ね」スモッグに汚れた空の何がいいんだか、お妙は外を眺めて始終楽しそうである。
「お前さ、電車がそんなに楽しいの?」俺がローテンション気味に尋ねたら、「そうではなくて…久しぶりのデートですもの」と恥じらい気味に微笑まれ、どうにも二の句が告げなくなった。若者と大人のデートにおけるモチベーションの差というやつは怖い。俺ももうちょい若かったらこんくらいフレッシュでいられたろうに。あ、俺の人生で俺がフレッシュだったことなんてないわ、取り消し。



お妙はきっとこのデートというやつに少女特有のキラキラとした幻想を抱いているのだろう。何だかんだ言ってお妙はまだまだ幼い。
しばしば俺に見せるお妙の純情な振る舞いに、俺は時々彼女を遠くからじっと見守ってやりたい心境になる。多分いろんな意味で、俺はお妙がかわいくてしょうがないのだと思う。

ぼんやりと外をみやる。『晴れるといいですね』と昨日彼女が電話ごしに言ったから、ほら見ろ、江戸は快晴だ。世界は概ね彼女の思い通りに動いている。
そうして満足げに笑うお妙が俺には眩しい。ずっと笑っていて欲しいと思う。
親心だってなくはないさ。成長していくお妙が俺にはかわいい。だが遠くで見守っていたいと思う反面、誰よりも側にいたいとも思う。お妙が頬を染めてはにかむ相手が、キラキラと恋の目を向ける相手が、いつも俺でありたいと思う。
「大江戸ランドに行きたいわ」
バスの広告を指差してお妙が言う。はいはいわかったよ、と呆れたように溜め息を吐くのが俺は好きだ。
要するに俺だってまだまだ少年の心は持っているわけで、つまりは彼女のヒーローになりたい。馬鹿げたこととわかってるけど。



スーパーヒロインダメヒーロー
(世界は今日も二人が回す)








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