銀ちゃんと ふたりっきりの朝の万事屋。新八がいるときと いないときとじゃ なんだがすこしずつ空気がちがって。 「銀ちゃん」 小さくつぶやいたそのことばの、空気の震えさえ 感じ取れそう、なんて。 (震えているのは わたしのほうネ) 「ねぇ、銀ちゃん」 向かいがわのソファーから ぼんやりまどの外をみていた銀ちゃんは、何だぁ?なんて のんきにわたしのほうを向く。いつもの死んだようなひとみに きらきら朝日がさしこんで、 (きれい、) 「銀ちゃん、」 あのね、わたしね、銀ちゃんのことが、 (――――すきヨ) そう 言おうとしたしゅんかん、唇にあたたかいものが ふれて、わたしは思わず口をつぐんだ。 ――それは、銀ちゃんの人差し指で。 言うな という、意味。 「おれちょっと買いもん行ってくるわ」 銀ちゃんはさっと立ちあがって玄関の方へ歩いてゆく。 「わたしおなか減っちゃったアル、肉まん買ってきてヨ」 何にもなかったかのように、わたしはげんきに声をかけた。いつもはなんだかんだと文句を垂れる銀ちゃんが、今日は「お―」なんて言って、片手をひらひらさせた。 銀ちゃんが出ていった扉を見つめながら、わたしは小さくため息をつく。 ――唇に残る 銀ちゃんの指の熱。 せつないのに かなしいのに 口の先からじわりとひろがるその熱は 体中を走りまわって、たまらなく、どきどきして。 (ああ でも それは 、とても とても カナシいこと) 涙が唇の上をつたって、あの感触は すぐにすべりおちて消えてしまった。 (ああ ウォータープルーフならよかったのに!) |