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T-U
「おはよ、坂田」
土方からの挨拶。
「おはよ〜高杉」
敢えて聞こえなかった振りで、高杉に声を掛けた。

「って、スルーかよっ!!」
案の定土方がキレる。
「あっ、土方居たの?」
今初めて気付いたかの如く、白々しく答えた。


俺と土方は幼稚園からの腐れ縁だ。
家も隣りで、親同士が仲が良い為兄弟同然に育てられてきた。

かと言って、子供同士が仲が良いとは限らない。
俺は何故か土方に嫌われている。


《今日は午後から大荒れの天気になるでしょう》
朝、テレビで結野アナが言ってた。

なのに
「最悪」
傘を忘れてしまった。
朝は降っていなかったのだ。
普通外出前晴れていたらさ、忘れるよな?

天気予報通り、外は強風と大雨だ。
今日に限って置き傘さえしていない。

『どうすっかな?』
憂鬱な気分で空を見上げる。
『濡れて帰ろうか?』
ふとそんな考えが過ぎったが
『無理無理無理』
余りにも荒れていた。
『帰れね〜じゃんか』
ハァァ―ッ、漏れる溜め息。

途方に暮れていたら
「入れよ」
ふと背後から声がした。
「土方?」
「どうせ隣りなんだ。入ってけよ」
珍しい。

「良いのか?」
「帰れねぇんだろ?」
グィッ!!
土方は無理矢理俺を引き寄せると、自分の傘に俺を入れた。
顔が、身体が近い。
そういえば何年ぶりだろう?
コイツを近くに感じたのは。
思わず見つめてしまう。

悔しい位に整った顔。
サラサラの黒髪。
引き締まった身体。
全てが俺のコンプレックスを刺激しまくる。
完全に俺の理想。

ムカつく。

今迄好きになった女の子も全て、土方に奪われた。
俺だって土方みたいに産まれたかったよ!!
俺がひねくれたのは全て土方のせい。
完璧過ぎるアイツが側に居るから悪いんだ!!
土方なんて大嫌い。

なのに、コイツみたいになりたいって願う。
嫌いなのに、ついつい見つめてしまう。
そんな自分が一番大っ嫌いだ!!!!


翌日、まだ天気は回復していなかった。
雨のせいで床がツルツルヌルヌルしている。

移動教室、何故か俺の前を歩く土方。
歩いているだけなのに、後ろを歩いていると何故か敗北した気分になる。

「先行く」
ムッとして、土方を追い越そうとした。
が、
『ぇ!?』
ツルゥ―ッ、足を滑らせた。

「坂田っ!!!!」
ガタタタタ〜ッ!!!!!!
俺を抱き抱えて、土方が階段から落ちた。

「土方!?」
返事が無い。
意識を失っている。
「オイ土方?大丈夫かよ?」
スグさま、病院に直行した。


「記憶喪失〜?」
診察室にて、予想さえしてなかったセリフを医師から聞かされ
『マジかよ?』
目を見開いた。

土方は頭を強打した衝撃で、記憶を無くしたらしい。

2人っきりの病室。
「あの〜?貴方はどなたですか?」
別人みたいな口調の土方に、一瞬悪戯心が芽生えた。

「俺?俺はトシの恋人」
在りもしない嘘。
誰も信じないだろ?
バレない様ニヤリ微笑んだ。

「名前は?」
「え?坂田銀時」
聞かれ、答えたら
「銀時」
初めて呼ばれた名前。
直後フワリ、何かが口に触れた。
『?』
ソレがキスだとは
『土方?』
一瞬気付かなかった。

「銀時?」
カァァァァ―ッ。
一瞬で赤く染まる顔。
コイツ今何した?

「可愛いな。まだキスだけだぞ?」

悪いかよっ!!
こっちは初めてなんだよっ!!!!

「やっ、あ・・・んっ」
何度も重ねられる唇。
「あ、んふ・・・」
ふわふわふわふわ変な感覚。
自然と零れる、信じられない位甘い声。

何コイツ?
なんでこんなにキスが巧いんだよっ?

「銀時」
甘い声。
コイツのこんな声初めて聞く。
トクンッ!!高鳴る胸。
待って、ヤバいよコレ。
何ときめいてんの?
何ドキドキしてんの?
コイツは土方であって、土方じゃないのにっ。
コイツは俺が嫌いなのにっ!!

「銀・・・」
「銀時」
呼ぶ声が甘くて、触れる指先が優しくて
『・っ!!』
勘違いしてしまいそうになる。

「土方ぁ・・・っ」
無意識に甘くなる声。
「違うだろ?銀」
優しく微笑まれ
「ト・・・シ・・」
小さく名前を呼んだ。
名前を呼ぶだけで赤くなる顔。

何コレ?
コレじゃぁまるで。
まるで本当の恋人同士みたいだ。

物凄く優しく触れてくれる指先に
「ひっ、あっ、あぁ・・・んっ」
愛情に満ちた甘いまなざしに
「トシぃ・・・っ」
勘違いしてしまいそう。
土方に、愛されているんじゃないかって。
そんな事、絶対に有り得ないのに。
今、此所に居るのは土方じゃないのに。

必死にバカな考えを頭から掻き消していたのに
「銀時好きだ」
最強に甘い声で囁かれ
『土方ぁ』
涙が出た。

どうして?
どうしてこんなにも胸が痛いの?

「トシ・・・トシぃ・・・っ」
何度も何度も繰り返し呼ぶ名前。
「好きだ」
そう言われる度に、奇妙な感覚に襲われた。
ねぇ土方。
この気持ちは何?

どうしてお前に好きだと言われて、こんなにも嬉しいんだ?

どうしてこんなに、胸が苦しいんだ?

どうしてもっと側に行きたいって感じる?

なぁ、どうして?

分からないよ。

・・・・・・分からない。

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