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『隣』
3.琉翔SIDE
触れる唇。
甘える様な仕草も声も、全て俺だけが知っていれば良い。
キスもソレ以上も俺としかして欲しくない。
そう思うのは間違ってる事、なのか?



神凪が奏と付き合い始めてから、奏と話す時間が減った。
今まで一緒に食べていた昼食。
一緒に連んでいた休み時間。
僅かな距離でも隣に並べて嬉しかった移動教室迄の道程。
全てが消えた。
いつも3人で居るのが当たり前だった。
一緒に居られるだけで幸せだったのに、それは全て奪われた。
今まで俺達が居た場所に居るのは神凪。
俺達の場所だった奏の隣というポジション。

嗚呼、もう、其処に俺は行けないのか?
縋る様に奏を見詰めると
「…………ぇ?」
神凪が不敵に笑った。

それは初めて見る顔。
いつもの爽やかさ等微塵も感じれない楽しくてしょうがない歪な笑み。
あの爽やか君があんな邪悪な顔するワケがない。
見間違い、だよな。

再び神凪を見ると其処にあったのはいつものキラキラオーラを振り撒きながら微笑む姿。
うん。やっぱり見間違いだった。

仄かな違和感を無視し、俺は二人から目線を反らした。



「なぁ、阿波路」
「ん?」
「阿波路は嫌じゃないのか?奏の事」
昼休み、屋上で背伸びをしながら阿波路に尋ねた。

「う〜ん。嫌っていうより寂しさの方が強いかな。俺思ってたより奏に依存してたみたいだ」
依存か。
確かに俺もそれに近い。
だけど俺はそれだけじゃない。
執着と独占欲が入り交じったドロドロとした恋情。
時折周囲だけじゃなく、阿波路にさえ嫉妬してしまう醜く淀みきった感情。
奏を抱き締める度、何処か自分しか知らない場所に閉じ込めて、自分しか見えなくしてしまいたいと考えていた。
俺は、何処かおかしい。

「俺さ、奏が好きなんだ」
初めて口に出した想い。
どうせもう報われないんだ。隠し続ける必要もない。
「…………知ってた」
「え?」
嗚呼、そっか。
知ってたか。
まぁ、バレバレだよな。口には出さなかったけど、態度や行動の全てが奏を好きだと告げていた。
隠せれる筈がない。

「阿波路は奏の事どう想ってる?」
今迄ずっと聞きたくて堪らなかった事。
聞くのが怖くて一度もその話題に触れなかった。

「好きだよ」
……………………………………………………え?

「何よりも誰よりも大切だし、愛してる。奏以上に愛しくて大切な存在なんて居ない。だけど俺は一生奏には言わない」
「は?なんで?」
「琉翔も言ってないだろ?好きって」
「それは言う機会なかったし、言って嫌われるのが怖かったから。だけど、一生言わないとかない。いつか絶対伝える。阿波路だってそうだろ?」
「やっぱ違うね琉翔は。羨ましいかも」
えっと、何が?
意味が分からなくて見詰めると、泣きそうな顔で
「俺、将来決められてるから」
阿波路は呟いた。


「俺の家さ、おかしいんだ」
初めて耳にする家の話題。
今迄阿波路は何度聞かれても絶対にソレに触れなかった。
奏には言わないで、という条件で俺は阿波路から話を聞いた。
それは全く俺とは違う世界で、雁字搦めに母親と家に繋がれた見えない枷と重りと手錠が見えた。

多分自分は将来母親が決めた相手と見合いか政略結婚をさせられて後継ぎを作らされる。
けれど、一生奏しか愛せない自分にとってそれは苦行でしかない。

好きだと告げて、もし万が一幸運が重なって奏から想いを返されても、幸せに出来ない。
将来が決められている自分に奏を愛する資格なんて最初っからなかったんだ。

そう告げられて、何かが違うと感じた。

「それでもさ、言えよ?」
「え?」
「言うのが怖いならさ、俺も一緒だからさ。もういっそのこと二人で一緒に言っちゃう?俺等お前の事愛しちゃってんだぜってさ?」
ニヤリ笑いながら言うと
「ほんっと敵わないな、琉翔には」
阿波路はさっきよりもっと泣きそうな顔で苦笑した。

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あきゅろす。
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