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『隣』
4.
図書室で、奏は流されるまま快楽に身を委ねていた。
だが琉翔は、完全に欲情しきった目で奏を見ていた。
その瞬間、俺は琉翔の好きな人は奏と理解した。

キスをされている奏を見て、ズキリ胸が傷んだ。
甘える様に抱き付いている姿をみて、寂しさを感じた。
だけど、俺は敢えてその感情に蓋をし、何も見なかった事にした。


それから月日は流れ、俺達は中3になった。
母に言われ進学校に進路を決めたが、二人と離れたくなかった。
母に進められた進学校の中で一番偏差値の低い高校を進路に決めると、二人も其処なら頑張ればギリギリ入れると言い張り、一緒に頑張る事にした。
勿論担任は俺にもっと上目指さなくて良いのか?とか、二人にもっと他に絶対受かる所を探そうとか言ったけれど、全てスルーした。

流石に受験で手を抜く事はしない。
俺は二人を受からせる為に、自分の勉強の空き時間を活用して勉強を教える事にした。
今までの復習をベースに、時折応用と過去問を出す。
中3になった頃の俺は、病的に教育熱心過ぎる母のせいで高校を越えて大学で学ぶ事迄全て叩き込まれていた為、自分の受験勉強をする必要は無かった。
だって、既に嫌って言う位学び尽くしているから。
そのお陰もあってか
「阿波路の教え方分かりやすい」
と毎回言われ、頼られた。

うん、全て完璧に覚える迄しつこい位復習させられながら叩き込まれたからね、勉強。

毎日一緒に勉強会をしていたお陰か、二人は成績が上がった。
このまま行けば順調に一緒の高校に行ける。
俺は嬉しくなった。


梅雨の季節になり、ジメジメした蒸し暑さが始まった。
今年は空梅雨と言われているらしく、雨が少ない。
が、降るか降らないか中途半端な曇り空が続いてスッキリしない。
休み時間は勉強するが、放課後はまだ部活がある。
勉強が苦手な二人は部活は息抜きだぁ〜って喜んでいる。
まぁ、受験生と言っても息抜きは大事だ。
一日中勉強漬けだったら嫌気するし息が詰まるだろう。
俺は楽しそうに部活に向かう二人を微笑ましく見た。


「あ〜わじ。今日は何描く?」
放課後一緒に行こうと奏が誘いに来たが
「ごめん、今日は用事あるんだ」
「そっかぁ。分かった」
「ごめんね?」
断った。

今日は父の会社でお披露目があって、其処に参加しなければならない。
取引先の社長とかメディア関係の方々も集まるらしく、何故か俺は其処でバイオリンとピアノを披露する。
正直面倒臭いが、仕方ない。

「また明日」
笑顔で奏に別れを告げ、下校した。


今日は外国のメディアと会社の方々も来ている為、外国の人も多い。
スピーチに様々な言語が混ざった。
その為、演奏する前の自己紹介も英語でする事にした。
先にピアノを弾き、その後バイオリンを弾く。
心を無にして音色に浸りながら弾き終えた瞬間、何故か一瞬心が乱された。

パッと脳裏に過った奏の顔。
嫌な予感がした。
何か自分にとって起きて欲しくない事が起こりそうな気がする。
それが何かは分からないが、心が不安で埋め尽くされた。


翌日
「奏?」
奏の様子がおかしかった。
何だろう?
何かがいつもと違う。
それは
「おはよう」
琉翔が登校してきて分かった。

「………………」

一瞬で理解した。
これは昨日何かがあった。

明らか琉翔が変わった。
元々熱い視線で奏を見ていたが、それが甘い視線になった。
そして奏も前より琉翔との距離が近付いた。

昨日何かが二人の間で起きた。

この時俺は嫉妬よりも何よりも、唯々寂しさを感じた。

嗚呼、また置いていかれた。

二人から仲間外れにされた様な感覚。

寂しくて悲しくて、唯々、泣きそうになった。




※ 次からは奏SIDEになります。

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あきゅろす。
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