[携帯モード] [URL送信]

『Marionette』
京SIDE 1-1
「お前綺麗だな」

つい先日行った公園で目が合った綺麗な人。
彼は日本人だったらしく、日本語で僕に話し掛けてきた。

突然言われた台詞の意味が分からずキョトンとしていると、彼は焦った様子で自己紹介してきた。

「はじめまして」
互いに名前を言い合い、握手を交わした。

彼の名前は曽根崎怜悧。
お父さんの仕事の付き添いでイギリスに来たらしい。
僕は祖母の付き添いだから、少し似ているのかもしれない、境遇が。

話してみて分かったのだけど、どうやら怜悧は僕と同じ幼稚園に通っていたらしい。
気掛かりだった親友のライの事を聞くと怜悧は何故か言葉を濁した。
元気にしてるとしか言われず、逆に心配になったが、無理に聞き出して嫌な雰囲気になるのは避けたい。
詮索を止めた。

日本からの観光客は居るが、会話をする事はない。
祖母や家庭教師のリフは日本語が話せるが、基本日常会話は全て英語。
遺伝で日本人離れした外見をしているからか、名前さえ名乗らなければ、僕は日本人に見えない。

そんな僕に彼は日本語を使った。
それは彼が日本人で、無意識に英語よりも日本語が先に出てしまっただけなのだろうが、僕は嬉しかった。
久々に聞く純粋な日本語が、幼稚園迄居た日本を思い出させてくれて。

尚且つ彼は僕と同じ年齢で同じ幼稚園に通っていた。
組が違っていて接点が少なかったから顔は知らなかったけど。
親友のライの事も知っていて、一気に親近感を覚えた。

同じ年齢って事もあって、僕達はあっという間に仲良くなった。
出逢った翌日から、毎日公園で遊んで、僕の休みの日は一緒に買い物をしたり映画を観たりして。
気が付くと怜悧は、イギリスに来て一番仲の良い存在になっていた。

つまらなかった毎日が一気にカラフルで楽しい物に変わった。
毎日が楽しくて幸せ。

そんな日々も長くは続かない。
理由は明白。
互いに母国で逢っているワケではないからだ。
怜悧が帰国する事になった。

寂しかったが、今は便利な時代だ。
LINEやメールで気軽に連絡が取り合える。
連絡先を交換しあって別れた。

iPhoneを通じての交流は楽しかったが、やはり実際に逢えないのは寂しい。
僕は日常に物足りなさを感じ始めていた。

そんなある日、僕にある朗報が入った。
祖母が帰国を考え始めたのだ。


夜御飯の時、祖母が
「此方での仕事にね、区切りが付きそうなの。だからそろそろ日本に帰ろうかと考えているんだけど、京はどうしたい?此処と日本ドチラに居たい?」
聞いてきた。

幼稚園年中が終わって直ぐに来たイギリス。
長く居た事もあって、日本の次だが大好きになっていた。
が、別に今回帰国したからと言って、一生此処に来れなくなるワケではないし、また来たくなったら次は観光で来たら良い。

それに、帰国したら家族全員が揃う。
久々に皆で囲む食卓は楽しそうだ。

期待に胸を膨らませていたら

「帰ろうか?京」

柔らかな笑みを浮かべながら、祖母は帰国を口にした。


あきゅろす。
無料HPエムペ!