『ガラクタ』
初恋（マシュマロ視点）
ネットカフェに潜入して3日間。
俺は、色々な知識を得る事が出来た。
って、なんか激しく偏った知識ばかり得た気も、せんでもないが。
まぁ、それ以外の知識は、此処を出てから覚えよう。
ぬいぐるみの姿のお陰で、全く疑われずに済んだ潜入操作。
この忌まわしい姿も、役にはたつんだな。
トテトテ歩く道。
ああ、もっと機敏に格好良く歩きたいのに。
既に先程見直したぬいぐるみ姿に、げんなりし始めた俺。
ため息を吐き出しながら空を見上げた。
ん？なんか茶色い。
もふもふ？
ハッハッハッハッ。頭上から聞こえる不思議な息遣い。
思いっ切り頭を上に向けると
「あっ、可愛い」
なんか可愛い動物が居た。
ベロンッ。
は？
今俺、舐められた？
あ〜ん。大きく開かれた口。
ちょっ、ちょっと待て。
この動物、俺の事、食べ物か何かと勘違いしてね？
眼前に、大きな口が迫った瞬間
「ふみゃぁあああああああ〜っつ」
なんとも情けなさ過ぎる、絶叫が口から飛び出した。
ああ、こんな姿、誰にも見せたくねぇ。
でも、今は、取り敢えず、誰か助けろぉ〜っつ！！！！
パニックに陥っていた俺。
ほぇ？
気が付くと、何か得体のしれない物体に持ち上げられていた。
って、おい。
俺をどうする気だ？
おい、こら。
ワケの分からないまま何処かに運ばれる俺。
ヤバい。
俺、誘拐されてしまった。
ん？
んんん？
目の前に流れる不思議な光景。
物凄く可愛い女性と、最強格好良い男性。
どうやら、俺を拉致した人間の親らしい。
ぽすんっ。ベッドに倒れる人間。
ぐぇっ。ちょっ、潰れたよ、今ちょっと。
人間は俺を完全にぬいぐるみだと勘違いしているらしい。
俺を抱きしめ、そのまま眠ろうとしていた。
って、ちょっと待て。
俺は眠くないんだ。
勝手に一緒に寝かすな。
「おい、こら。起きんかボケ」
ペチンッ、頬を叩き、文句を言った。
「可愛い」
開かれた瞳。
寝ぼけてるらしく、柔らかな口調。
あれ？
なんか、コイツ可愛い？
って、再び寝るなっ！
閉じられた瞳。
あっ、睫毛長い。
鼻高い。
肌綺麗。
コイツ、スッゲェ綺麗な顔してんじゃね？
じゃなくて、起きろ、起きやがれ、ボケっ！
漸く起きた人間。
よしよし、物凄く優しく撫でられた頭部。
俺、こんなに優しく撫でられたの、産まれて初めてだ。
「可愛いなぁ、お前」
笑いかけられ
「ふひゃぁああああああ。かわいいでちゅ」
俺は壊れた。
「はじめまちて。まちゅっていいまちゅ。これからよろちくでちゅ」
意識的に出すアニメ声。
部屋の中を見渡す限り、コイツは可愛い物が大好きだ。
可愛い雑貨沢山あるし、俺の事も幸せそうに可愛いって言ったしな。
「あにゃたのおにゃまえはなんでしゅか？」
あの怪しげな人間が観てたアニメのマスコットキャラは、少し舌足らずで語尾に何か変なのを付けていた。
俺はマシュマロだから、［〜ちゅ］で良いだろう。多分。
「赤峰紅菓」
へぇ〜。
紅菓っていうのか。
でも、普通に呼んだら面白くない。
「コーラ？」
ワザと間違えてみた。
「紅菓だ」
「コアラ？」
「紅菓」
「こぉ〜ら」
「紅菓」
「コーラ」
「紅菓」
「コアラ」
・・・・・・・ちょっ、楽しいコイツ。
顔スッゲェ好みだし、面白いし、俺コイツの事マジ気に入った。
スッゴイ意地悪して、虐めてやりてぇ。
泣き顔とかマジそそりそうだな、おい。
なんか暗くなったコアラ。
「で、お前まちゅって名前なのか？」
名前を聞いてきた。
「ちあうよ。まちゅはまちゅにゃの」
うん、この喋り方難しいな。
「名前言ってごらん？」
あっ、でもコアラの口調が優しくなったから、成功か？
「字ぃ書ける？」
聞かれて、恥ずかしくなった。
俺ダサい。
字さえ書けないなんて、マジ恥ずかし過ぎ。
「なら、この部屋に、まちゅと同じ名前ある？」
なのに、笑いもせず、優しく接してくれるコアラ。
ヤバい、マジで惚れそうだ。
口調を戻したくなったが、コアラには好評らしいから、必死に我慢して赤ちゃんみたいな口調を続けた。
「マシュマロ？」
初めてコアラに呼ばれた名前。
〜っつ、ヤバい。
マジ胸が痛い。
コレ本気で惚れたかも、俺。
「あい♪」
コアラが喜びそうなアニメ声でする返事。
「これから宜しくな？まちゅ」
とろけそうな甘い笑みを向けられ
「よろちくおねがいしまちゅコアラ」
俺も極上の笑みを返した。
って、ぬいぐるみだから余り違いは分からないか。
ガッカリ。
こうして、俺は人間界で初めて人を好きになった。
いつか格好良い人型になって、コアラを組み敷いてやる。
コアラに抱きしめられながら、密かに闘志を燃やした。
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