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「‥‥、くっ」
フラウ!
叫んだのとフラウがどさりと倒れたのは同時だった。
頭の中が、真っ白になる。
フラウが倒れる動きは、まるでそこだけスローモーション再生しているかのように、嫌になるくらいやけにゆっくりで。
「らう!っフラウ!!」
気付けば、つまずいて何度もこけて擦り傷をつけながらただただひたすらがむしゃらにフラウの元へ走り寄った。
何でどうして何で。
嫌だダメだ嫌だ嫌だ行かないで行かないで、
フラウフラウと叫ぶ悲痛な声だけが辺りに響き渡る。
やっとの思いで近くに来てフラウの横に崩れるように座り込んで、彼の胸元の服をギュッと掴んで力いっぱいにさすった。
「っフラウ!何とか言えよフラウ!!」
フラウの服を掴む両手はたちまち真っ赤に染まり、血液独特の鉄分を含んだ鉄が錆びた匂いが鼻を刺激した。
相当ひどい出血でフラウが横たわる地面からはじわじわと血液の水たまりが広がり始める。
(っ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!)
ボロボロと目から大量に溢れ出る涙がフラウの血液と混じってぐちゃぐちゃになる。
だけどそんなの構わなかったどうでも良かったフラウが目を覚ましてくれるならもう一度名前をあの優しい声で呼んでくれるなら。
「っ、くそっ起きろよ!起きろよフラウっ、ひっく、」
限界だった。
唇が切れるくらい口をぎゅっと結んでも耐え切れない嗚咽にフラウの血と自分の涙でぐちょぐちょに濡れたフラウの胸元に顔を埋めた。
顔にフラウの血がついたけどフラウの血なら本望だ。
「‥‥ってェな、」
「、」
信じ、られなかった。
聞き間違いかと、思った。
慌てて顔を上げれば、青い瞳を微かに覗かせながら苦痛に酷く顔を歪めるフラウが、そこにいた。
何故かずいぶん見なかった気がするその見慣れた青を見ただけであれだけ苦しくて苦しくて窒息死しそうだった胸は一気に酸素を受け入れて、俺はしゃくり上げながらフラウの頬に恐る恐る触れる。
「っ、ぁ‥‥ら、う?」
本当の、本当に?
「重てぇんだよクソガキ」
酷く痛むのだろうに苦し紛れに笑ってのけたその意地悪な笑みはいつもの、いつものフラウだった。
ただそれだけの事なのに、ただそれだけの事なのに、それがすごくむしょうに言葉にできないくらい嬉しくて、洪水のように次々と溢れる涙でくしゃくしゃの泣き顔をフラウの胸に埋めた。
「、かった、よかった‥‥っ!」
もう二度と逢えないんじゃないかと思った。
さんざん泣いたせいで喉は枯れていて、振り絞るようにして出した声も酷くざらざらだった。
だけどフラウは聞き取れたのか、無理してフッと笑うと血まみれの片腕で俺の頭を撫でた。
その優しい笑みに心が一気に温かく満たされていって、フラウがそんな顔をこんな時にするもんだから火傷しそうに熱いものが胸に込み上げてきてまたぽろぽろと酸っぱい雫が頬を伝う。
だけど。
「‥‥悪ぃな、テイト。もう長くねぇみたいだ」
‥‥え?
時が、止まった。
今、フラウは、何て?
涙が、止まる。
呼吸が、止まる。
血流が、止まる。
思考が、止まる。
心臓が、一つ大きな音を立てて、止まった。
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