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暗い闇にすっぽりと包まれた広い寝室。


「っ触るな!」


月だけが真っ暗闇の寝室を照らし出す中、アヤナミは嫌がる小さな少年の両手を掴んで乱暴にベッドに放り投げた。


少年はドン、とベッドに勢いよく倒れ込むけれど、すぐにアヤナミから離れようと起き上がる。


そんな少年をアヤナミは慣れた手つきで自らの下に組み敷いた。


少年はなおも手足をばたつかせてもがいて抵抗するけれど、軍人のアヤナミにはそれは痛くも痒くもない抵抗だった。


「っ、どけよ、離せ!!」


待ち侘びていたこの瞬間。


「無駄な抵抗はよせ、テイト=クライン」


低く深いアヤナミの声が部屋に響いて、不意にテイトは大人しくなる。


その代わり、テイトは憎しみの炎を揺らめかせた翡翠の瞳でアヤナミを睨みつけた。


その目は、激しい憎悪と静かな恐怖に彩られていてとても魅惑的で美しい。


「‥‥何する気だ」


必死に虚勢をはろうとするテイトの声音からは微かに恐怖が感じられて、アヤナミはほくそ笑む。


「分かっているだろう」

そのアヤナミの言葉にテイトはビクリと肩を震わせた。


「‥‥っ、嫌だ」


「テイト=クライン。お前に選択権はない」


永久にな。


そう満足げに微笑んでアヤナミはテイトを掴む腕の力を強めて、そのままゆっくりと顔を近付けた。


これでもう私の――――。


「っ嫌だ、フラウ」


「‥‥‥‥」


テイトの唇から零れ落ちたのは自分ではない者の名前。


ドクンと波打つ鼓動。


静かな怒りが身体中を駆け巡る。


「フラウ、フラウっ!」


フラウ、フラウと翡翠の瞳から大粒の涙を流しながらテイトは何度もその名前を叫んだ。


苦しい。


息が苦しい。


「‥‥その名前を言うな」


冷たい怒りを含めたアヤナミの声に一瞬、テイトは止まる。


「嫌だ、助けてフラウ、フラウ!!」


「、っ」


嫌々と首を振りながら、ここにはいない愛しい者の名を呼びながら泣き叫ぶテイトにアヤナミははらわたが煮え繰り返るような嫉妬にかられるけれど、同時にその妖艶な姿に思わず目を奪われる。


愛する者の名を泣き叫びながら汚されていく様は背筋がゾクゾクするほどに美しい。


フッと笑ったアヤナミは、フラウフラウと泣きながら抵抗するテイトの身体を一層強く抑えつけて、フラウとその名を呼ぶ唇を強引に塞いだ。




眠る君の頬には涙した
(その跡を指でそっと辿れば、フラウ、と切なく呼ぶ声に胸がチクリと痛んだ。)




***
fin
20090426


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