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先に風呂から上がったテイトは寝間着を着て、濡れた髪はそのまま火照る身体を冷ます為にベランダへ出た。
蒸し暑い夏はどこへ去って行ってしまったのか。
肌に感じる、ほんの少し肌寒い風。
夏の生温い夜の風とは違う、冷たい秋の匂いが香る風はどこか寂しい気配が漂う。
リーンリーンとどこかで悲しげに鳴く秋の虫の音が聞こえて、それがまた風流で、この季節独特の物悲しい雰囲気に拍車をかけている。
テイトはベランダの手摺りの上に腕を組んで、その腕の上にことんと顎を置いた。
「秋、か」
今年もまたこの季節がやって来たのか。
そう思えば、あれだけ暑かったのに、今はもう遠くに過ぎ去ってしまった夏が、無性に恋しくなって淋しくなる。
少し肌寒くなったテイトは腕を解くと、自らの両手で両腕を摩った。
(なんか、秋って)
「こんな所にいたのか」
不意に背後から低い声がして、ゆっくり振り返ればもう風呂から上がったフラウがそこに立っていた。
もちろん、ちゃんと服は着ている。
お互いの裸なんてとっくのとうに見慣れているし、フラウも平気みたいだけれど、それでもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。
服着てて良かったなんて心の隅で安堵しつつ、テイトはまた夜の帳の向こうに視線を戻した。
そんなテイトの横に並ぶようにフラウは立つ。
「もう秋なんだな」
すーっと秋の空気を吸い込んで肺で満たす。
秋は嫌いだ、とテイトは思った。
だって秋の夜は虫の音も風の冷たさも何もかもが悲しく感じる。
それにこうして秋を肌で感じると、何故か恋しくなってしまうのだ。
(秋は人肌が恋しくなるって言うけど)
(本当なんだな)
「秋の匂いがする」
感慨深げに横でぽつりと呟いたテイトにフラウは目を瞬かせた。
長い睫毛の下にあるエメラルドグリーンの綺麗な瞳が微かに揺れている。
正直、フラウが来てくれて良かったと思った。
だってもし今こうして横にフラウがいなかったら、自分からフラウの側に飛んで行ったに違いない。
恥ずかしい話だけれど。
悶々と思っていた時だった。
ふわりと身体を包み込まれてテイトは「うわ」と声を上げる。
もちろん、フラウに後ろから抱きしめられている事はすぐに分かった。
「ちょ、離れろよっ」
暑苦しいだろ、なんて可愛げのカケラもない事が咄嗟にテイトの口をついて出る。
こんな言葉、本当は言いたくないのに、つい思っている事と正反対の事をいつも言ってしまうのだ自分は。
本当は抱きしめてくれて嬉しいのに。
きっと秋のせいだ、今夜はいつもより人肌が恋しい。
でもフラウはテイトの声が聞こえなかったのかさらにギュッと胸の中のテイトを抱きしめた。
そしてテイトの頭の上に顎を置いて小さく笑った。
「人肌が恋しくなったんだろ?」
「っな!ち、ちが!」
どんぴしゃりなフラウの言葉にテイトは一気に顔を真っ赤にする。
顔は見えないけれど声音や雰囲気からそんなテイトの腕の中の様子が手にとるように分かってフラウはわざとからかう。
「へぇ?違うのか?」
ならいいけどな、とフラウは言うとわざとテイトから離れようとした。
「っ‥‥!」
びくりとテイトの身体が震える。
「ち、ちが‥‥」
きっと素直になりたいけどなれなくて歯を食いしばって必死に堪えているんだろうひどく可愛らしい恋人に、フラウはちゅ、とテイトの頭の上にキスを落とすともう一度、今度はゆっくりとテイトを抱きしめた。
その小さな身体からはシャンプーやリンスの甘い香りがしてフラウは気持ち良さそうに瞳を閉じる。
離れかけていたのに再び抱きしめられたテイトは驚いたように身体を強張らせていたけれど、やがて身体の力を抜いてフラウにもたれ掛かった。
「お前、いい匂いがするな」
フラウがテイトの細い首筋に顔を埋めるとテイトはくすぐったそうに身をよじる。
「フラウこそ」
いい匂いがする、とくるりと身体ごと振り向いたテイトの唇をフラウはそっと塞いだ。
ちゅ、ちゅ、と啄むような軽いキスを何度も何度も角度を変えて繰り返す。
「‥‥っぁ、んっ」
微かに感じる身体の奥の熱。
最後にぺろっと下唇をゆっくり舐めて唇を解放してやれば、テイトは顔を真っ赤にしてフラウを見た。
「これで、人肌が恋しくなくなっただろ?」
心底楽しげにフラウはニヤリと意地悪な笑い方をしてテイトの耳を甘噛みする。
「っ、ひゃっ」
敏感に反応するテイトに「やらしい声」とフラウは満足げに微笑むとさっき甘噛みした所に舌を這わせた。
「な、ちょ、やっ‥‥」
フラウは何の前触れもなく唇を離した。
「ほら、行くぜ」
突然、行為を中断されたテイトの表情はどこか不満げで可愛らしい。
「は?どこに?」
眉を潜めて問うテイトにフラウは怪しく笑った。
「どこってベッドに」
「‥‥は?!ちょ、ふざけん、ってわっ」
顔を真っ赤にして照れ隠しでギャーギャー喚く小さな恋人をフラウがひょいと横抱きすると、テイトは慌ててフラウにしがみつく。
「何なら俺はここでもいいけど。ベッドとここ、どっちがいいんだ?」
といやらしい笑みを浮かべて聞くフラウにテイトは身体中の肌を真っ赤にした。
どうやらしないという選択肢はないらしい。
テイトは観念したように息をつくとか細い声で囁いた。
「べ、ベッドで‥‥!」
最高潮に真っ赤な顔で小さく叫んだテイトにフラウはクツクツと満足げに笑うとそのまま寝室へと上機嫌に向かった。
秋色ラプソディ
(でもお前が傍にいてくれるなら、そんな秋も嫌いじゃないんだ)
***
fin
人肌が恋しくなっちゃうテイトが書きたくて書いてしまいました。
ここまで読んで下さって本当にありがとうございました。
20090916
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