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幸せな時間はあっという間に過ぎるというのは本当だ、とテイトは思う。


夜の帳がとっくのとうに降りて、人々が寝静まる穏やかな真夜中、テイトはそんな事を頭の片隅に思い浮かべながら自分の横にいるフラウをちらっと見た。


フラウは今、ベッドに座って教会から送られてきたんだろう資料を退屈そうに見ている中、テイトは何をする事もなくただフラウの横にちょこんと座っていた。


カペラは隣りの部屋で熟睡中。


借りた宿には一つの部屋に二つ寝室があったので、テイトはカペラとさっきまで寝ていたのだけれど、カペラが眠りに落ちたのを見届けた後、そっと起こさないようにベッドから抜け出してフラウのベッドへ来たのが何時間か前のこと。


何故、自分がそんなことをしたのかは分からない。


だけど、きっと、


(‥‥、寂しかったんだ)


今じゃ二人きりで会える時間は殆どない。


だからこそ、こうして今テイトはここにいる。


(あとちょっとだけ‥‥あとちょっとしたら戻ろう)


じゃないと朝、カペラが起きた時に自分がいなかったらきっとカペラは驚くに違いない。


短い逢瀬の時間。


何もしなくていい。


ただ、フラウの隣りにいられる、それだけで幸せを感じる自分がいる。


テイトはあくびを噛み殺して眠たそうに目をこする。


ベッドサイドの時計を見るとそろそろ戻らなければならない時間帯だった。


明日もきっと早い。


「フラウ、お休み‥‥オレもう行くから」


あくび混じりにそう言ってベッドから降りようとするテイトをフラウは資料を片手に見た。


「‥‥ここで寝ていかねぇのか?」


ちょっと意外そうに聞くフラウにテイトは呆れたように顔をしかめる。


「カペラがいるだろ。もしカペラが起きた時にオレがいなかったら、」


「そんな事今まで何回もあったじゃねぇか。今晩はここで寝ていけよ」


「でもカペラが、」


そう言って渋るテイトにフラウは呆れたように肩をすくめて口を開く。


「でもお前はどうなんだ?」


「は?」


いまいちフラウの質問の言いたい事が分からずにフラウを見れば、フラウはニヤッと笑った。


「お前はここで寝たいんだろ?」


何もかも見透かしたようなサファイア色の瞳に射抜かれてテイトは一瞬だけ呼吸を止める。


「なっ、」


顔を真っ赤にして口をパクパクさせるテイトにフラウはさらに追い撃ちをかけるように言葉を続けて。


「寂しいからここに来たんだろ?」


全部お見通しだと言わんばかりのフラウにテイトは身体を固まらせる。


「っ、ふ、フラウだって寂しかったんだろ?じゃないとこうやってオレを呼び止めない」


まだ目元を染めたまま、挑戦的に見返すテイトにフラウはしばらくポカンとしていたけれど、やがてクツクツと肩を揺らして笑い始めて。


「なっ何笑ってんだよっ」


拗ねた口ぶりの気が強いテイトにフラウはふっと笑ってテイトを優しい眼差しで見つめる。


「いや別に。ただ可愛いなと思って」


「か、かわ、っ」


ベッドの上で固まったまま顔を熱くさせるテイトにフラウは満足そうに笑うと、ぐいっと手を引っ張って自分の方へと軽く引き寄せた。


テイトは抵抗する事なく、されるがままにフラウの横へ寝転がる。


「‥‥お前の言う通り、オレは寂しかったぜ?」


久しぶりに耳元で聞く、耳に優しい低いフラウの声に、テイトは身体を震わせるとそっとフラウの方へ身体を擦り寄せる。


「‥‥、オレも、寂しかった」


すごくな、と恨みがましく腕の中からジト目で睨み上げるテイトにフラウは苦笑すると、テイトを抱く腕の力を強めて。


「じゃあ今は?」


フラウがそう聞けば、テイトは照れ隠しでか顔をふいと俯ける。


だけど、次の瞬間にはテイトは顔をフラウの胸に押し付けて甘えるようにフラウに抱き着いた。


「今は‥‥寂しくない」


「オレも」


フラウとテイトはゆっくり顔を見合わせると小さく微笑み合って、やがてそっと唇を重ね合わせた。



かわいい
(ねぇ、こうやって唇を重ね合わせれば、こうやって肌を触れ合えば、ほら、もう寂しくなんかないよ)




***
fin
20090715


あきゅろす。
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