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月明かりだけが寝室を淡く照らし出す真夜中の教会、そこには二つの影が白いシーツが敷かれたベッドの上で静かに重ね合わさっていた。
「んっ‥‥」
いつも寝る前にする、優しいとろけるような口づけにテイトは甘い声を上げてキュッとシーツを掴む。
テイトを組み敷いて上に覆いかぶさっているフラウは、そんなテイトの様子に満足そうに微笑むと、最後にテイトの鼻の頭にちゅっと音を立ててキスすると、いつものようにテイトの上からどいた。
の、はずだった。
「、テイト」
だけど、今晩はどうかしたのか、不安げに翡翠の瞳を揺らしたテイトがフラウの腕を掴んで引き止めたのだ。
まるで"このまま続けて"とでも言うように。
フラウはテイトの行動に戸惑いながらも、テイトの上に覆いかぶさったまま、自身を掴むテイトの白く細い腕にそっと手を這わせた。
「どうしたんだよ」
何かあったのか、とフラウが優しく問えば、テイトはふるふると首を小さく横に振る。
こんなテイトは初めてだった。
こんな、まるで駄々をこねる子供のようなテイトは初めてだった。
「フラウ」
「ん?」
やっと口を開いたテイトにフラウはいつもの彼からは想像出来ないほどに優しい微笑みを浮かべてテイトの頭を撫でる。
「お願いが、あるんだ」
「お願い?」
何だ言ってみろよ、と先を促すフラウにテイトは気まずそうに視線を逸らす。
「?」
だけど、次の瞬間には、テイトはその美しい翡翠の瞳を真剣にフラウに向けて、ベッドの上で自身を組み敷くフラウをどこか熱っぽい視線で見上げた。
「ねぇ、フラウ。オレを、抱いて」
「な‥‥」
フラウは驚いてその青い瞳を見開く。
だけど、テイトは何故か苦しそうに悲しそうに切なそうに消え入るような声で「お願い」と囁いた。
「テイト‥‥お前、自分が何言ってんのか分かってんのか?」
フラウの顔が微かに赤くなっているのは気のせいではない、とテイトは思った。
でもそれ以上に自分はもっと真っ赤で、事実、身体が焼けるように熱い。
「、分かってる」
「じゃあ何で、」
「っ不安なんだ‥‥!」
テイトはギュッと瞳を閉じる。
「不安?」
「お前が、フラウがオレの事本当に好きかどうか不安なんだ」
「テイト、」
「っ」
「テイト、よく聞け」
怒ったのかと恐る恐る瞳を開ければ、そこには呆れたように笑う、だけど温かい笑みを浮かべたフラウがいた。
「オレはちゃんとお前の事が好きだし愛してる」
「じゃあ何でっ」
「?」
「じゃあ何で抱いてくれないんだ?」
どうやらテイトは、自分がテイトを抱かないから本当に好きかどうか不安らしい、という事がフラウにやっと分かった。
「それ誰から聞いた?」
詳しく言えば、誰からの入れ知恵だ?だが。
「カストルさんとかラブラドールさんとか」
「‥‥‥」
あのオタク眼鏡、とフラウが口の中で軽く罵ったのは言うまでもない。
テイトは苦しそうに瞳を細めて肩を震わせた。
「普通は、好きなやつと一緒にいたら抱きたいって思うって。それが普通だ、って。フラウはキスはしてくれるけど、いつもキスだけだし。オレ、不安なんだ、本当にお前がオレを好きかどうか‥‥。恋人になって長いのに、お前はいつまで経っても手出して来ないし‥‥。それはオレが男だからか?オレは、オレはっ」
「テイト、もういい」
もういいから、とフラウは小さい子供をあやすように優しい声音でそう宥めると、そっとテイトと頬に手を添えた。
テイトは今にも泣きそうな潤んだ瞳で自身を見上げていて、こんな状況だけれど不謹慎だけれどとても妖艶で美しかった。
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