[携帯モード] [URL送信]
.
夜中、オレがフラウの部屋を訪れた時、フラウはちょうど出かける準備をしていた所だった。


フラウはオレが入って来たことに気付いて、ドアの前に立つオレをふと見遣るけど、それもつかの間、すぐにフラウはオレから視線を外した。


最近、フラウの様子がおかしい。


正確に言えば、ミカゲが死んでちょっと経ってから、フラウの様子がおかしい。


ミカゲが死んでちょっと経ってから、オレがフラウを見かける回数は減ったし、フラウがオレに話しかける回数も極端に減った。


フラウはオレを避けてる。


そんなことくらい、このオレにだってすぐに分かった。


ミカゲが死んでから、オレは毎日毎日泣いた。


ミカゲが死んでも当たり前みたいに来る毎日に絶望して、呪って、泣いた。


そんなオレに手を差し延べてくれたのはフラウだった。


何度その手を振り払ったか分からない。


でも、最後にはその手をオレは掴んだ。


その時、気付いたんだ。


その時、大切なことに気付いたんだ。


「どこ、行くんだよ」


最近、フラウはコール狩りが終わった後、夜な夜な部屋を抜け出していた。


だけど、いつも朝になったら戻って来る。


カストルさんやラブラドールさんにフラウが毎晩どこへ行っているのか、と聞いても二人は悲しそうに表情を曇らせるばかりで。


フラウはオレを見ようともせずにオレの質問が聞こえないふりをする。


それが何だか無償に悔しくてムカついて悲しかった。


「答えろよ!」


イライラと声を荒げたオレに、フラウはやっと手を止めるとゆっくりオレを振り返った。


「‥‥っ」


それは、冷たく心臓に突き刺さる、氷のような碧い瞳だった。


初めてフラウから向けられる冷たい視線にオレは一瞬息が止まった。


だけどフラウはその冷たい瞳でオレを無表情に見据えたたまま、静かに口を開いた。


「お前には関係ねぇ」


ズキンッ


身体が、心が、胸が、痛かった。


痛くて苦しくて目の前が真っ暗になって何も考えられない自分に腹が立った。


(お前には関係ねぇ)


今さっき言われたフラウの冷たい言葉がエンドレスに脳内でリピートする。


「‥‥女の人の所に、行ってるのか?」


オレが声を振り絞るようにして言うと、フラウは少し驚いたように目を見開いて、だけど次の瞬間にはフッといつもの笑みを浮かべた。


「へぇ?クソガキのくせによく分かってるじゃねぇか」


「当たりだ」とニヤリと満足そうに笑うフラウにまたオレの心はギュッと苦しくなる。


どうしようもないくらい苦しくて苦しくて呼吸することさえ苦しくて。


(聞きたく、なかった‥‥苦しい、痛い、気持ち悪い、吐き気がする)


毎晩毎晩、フラウは女の人の所に行ってる。


心の中で何かどす黒い感情が渦巻いて気持ち悪くなる。


薄々は、気付いてた。


薄々は、分かってた。


分かってたことなのに、覚悟してたことなのに、それなのにどうしてこんなに悲しいんだろう、どうしてこんなに苦しいんだろう。


「お前こそ、どうしてここに来た?」


顔を俯けて、必死に涙を堪えてるオレにはフラウの表情は分からない。


だけど、フラウの声は何故か真剣味を帯びていた。


どうしてここに来たかだって?


そんなの決まってる。


フラウに逢いに来たんだ。


オレ、ミカゲを失ってから気付いたんだ。


もう、これ以上、大切なものは失いたくない。


だから、最初は遠ざかろうとした。


だけど、日に日に膨れていくこの想いはどうしようもなくなって。


だから、決めたんだ。


強くなろう、と。


自分の大切なものを失わないように。


「オレは、」


「生憎だが、オレはお前に構うほどヒマじゃねぇんだよ」


初めてフラウから言われた拒否の言葉。


冷たい声に恐る恐る顔を上げれば、そこには無表情にオレを見下ろすフラウがいた。


ただ、怖かった。


拒否されたことが、怖かった。


掴んだ手を離されたのだ、と分かったことが怖かった。


「それにオレは、ミカゲじゃねぇ」


「そんな、」


何を当たり前なことを言ってるんだ、そんなこと知ってる、と開きかけたオレにフラウは最も残酷な言葉を吐いた。


「あいつがもういないからってオレを代わりにすんな」


「オレはミカゲじゃねぇんだよ、クソガキ」


今まで聞いたことがない、冷たく光るナイフの刃のように冷たい声音でフラウはそう吐き捨てるように鋭く言い放つと、オレが止めるヒマもなくスッとオレの横を通り過ぎる。


「ま、待っ、」


バタン


まるでオレを拒否するかのように閉められたドア。


フラウの服を掴みそこねたオレの右手は空をかく。


なんで、なんで。

「違う、っ違うんだ‥‥!」


フラウがいなくなった瞬間、オレの目から涙がボロボロと零れ落ちる。


お前がいたからミカゲがいなくなった今でも笑えて、お前がいたからミカゲがいなくなった今でもこうして生きてる。


ミカゲをお前に重ねてなんかいない。


ミカゲがいなくなったからお前を代わりにしてるわけじゃない。


ミカゲがいなくなったから慰めて貰おうとお前を利用したんじゃない。


ミカゲはダチで、親友で、戦友で。


だけど、お前はミカゲとはもっと違う意味で大切なヤツで。


ミカゲはオレにとって大切でかけがえのないダチだけど、その"大切"とは違う意味でお前はオレにとってすごく"大切"な存在で。


それなのに、どうして、どうして。


「っ、ははっ、そういえばさ」


嗚呼、今、思い出した。


流れ落ちる涙を拭うことなく、泣きながら自嘲気味にオレは笑う。


そういえばいつからだろう。


「、いつからっ、だろ‥‥?」


いつからだろう、フラウがオレの名前を呼ばなくなったのは。




Hurt
(もしオレがお前のこと傷付けたならごめん。本当にごめん。だからお願い、戻ってきて。戻ってきて、またオレの名前を呼んで。お願いだ、また前みたいに笑ってオレの名前を呼んでよ)




***
fin
フラ→←テイで、フラウの大切さに気付いて伝えようとするテイト。だけど、所詮、テイトにとって自分は親友を失った心の埋め合わせに過ぎないのだ、と考えるフラウ。
そんな二人の悲しいすれ違い。
ここまで読んで下さって本当にありがとうございました。
20090615


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!