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俺はお前ほど気持ちを自分の声に出して言うのは得意じゃないから。
だから花達に託して伝えよう。
やっと司教の仕事が一段落して、息抜きにフラウが外に出ようと部屋から出かけた時だった。
「フラウ、」
凛とした耳に心地良く響く声に振り返れば、案の定そこには黒髪に翡翠の瞳の自分よりずっと小さな少年。
いつからだろう、コイツがこんなに自分に対して心を開いてくれるようになったのは、なんて心の隅で思いながら「よう、クソガキ」と手を上げて挨拶を返す。
「俺はクソガキじゃねぇっ。っていうか、お前どっか行くのか?」
「煙草吸いに外行くとこ」
「ふーん」
聞いといて興味なさそうに返すテイトにフラウは「お前なぁ‥‥」と顔を引き攣らせたけれど、テイトが自分に話し掛けてくることなんて滅多にないからふと口を開いた。
「そういえば、オレに何か用か?」
「は?あぁ、」
フラウに聞かれて思い出したのか、テイトはどこに隠していたのか、一輪の可愛らしい白い花をフラウの前に差し出した。
「これ可愛いだろ?」
「可愛いけど‥‥」
突然のテイトの行動に面食らったフラウは戸惑い気味に眉を潜めた。
「それ、どうしたんだよ」
お前が花なんて珍しいな、とフラウが言えばテイトは「咲いてるのが目に止まって、すごく可愛いからフラウにも見せてやりたくて」と小さく微笑みながら言う姿が可愛らしくてフラウは思わず見とれてしまう。
「これ、お前にやるよ」
「オレに?」
いやいらねぇ植物すぐ枯らすし、と断ろうとするフラウの手に「お前の部屋なんか質素だから花でも飾っとけ」とテイトは強引に押し付けて、「じゃあな」と足早に去って行った。
これが数分前のこと。
「ラブ、いるか?」
今、フラウは教会の中庭にいるであろうラブラドールを尋ねに来ていた。
それはもちろん、テイトに貰った花を生ける花瓶をラブラドールに貰うため。
あいにく自分の部屋には花瓶なんてものは置かれていないし持ってもいない。
「あれフラウじゃない。その花どうしたの?フラウが花なんて珍しい」
くすくすと笑うラブラドールにフラウは肩をすくめた。
「わからねぇけど、クソガキに貰ったんだよ」
「テイト君に?」
「おう」
「可愛い花だね」
「まぁな」
嬉しそうに微かに笑みを浮かべるフラウにラブラドールもふふ、と笑って。
「その花はエキザカムって言うんだよ」
「エキザカム、か」
良い名前だな、とサファイアの瞳を細めて優しい眼差しで花を見つめるフラウにラブラドールはふわりと微笑む。
「そういえば、フラウ知ってる?エキザカムには花言葉があるんだよ」
「へぇ。なんていうんだ?」
興味津々にラブラドールを見るフラウにラブラドールはくすりと笑って。
「それはテイト君にフラウが聞きなよ」
そうラブラドールは言うと、フラウは眉を潜めた。
「んだよ気になるじゃねぇか。それにあのクソガキが花言葉知ってんのか?」
「知ってるよ」
だって僕が教えたからね。
その言葉はもちろん口には出さずに、ラブラドールは、水を差した花瓶に一輪のエキザカムを差してフラウに渡してから「ほら早くテイト君に聞きに行って」とフラウを追い返す。
「うわっ、分かったから押すなって。ったく」
はぁ、とため息をつきながら花瓶を片手にテイトを探しに行くフラウの背中を見送るラブラドールは小さく微笑んだ。
そう、エキザカムの花言葉は、『あなたを愛します』。
この花の花言葉教えて下さい、と突然やって来たテイトを思い出してまたラブラドールは笑みを浮かべる。
フラウがエキザカムの花言葉を知るのはあともうちょっと後のお話になりそうだね。
the language of flowers
(この後、珍しく頬を微かに朱色に染めたフラウを多くの人が目撃したとか。)
***
fin
20090419
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