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「なんで‥‥言わないんだよ?」


開け放たれた窓から入り込む冷たい空気が肌をすり抜けていく、月だけが闇夜を照らす夜。


それは教会も例外ではなく、窓から月明かりが差し込んで俺の部屋を淡く照らし出していた。


冷たい空気を先に震わしたのは、今は殆ど使われていない俺のベッドに腰掛けて、俺に戸惑いの瞳を向けるテイトの声だった。


「何が?」


そんなテイトに背を向けて、ベッドから離れたところで俺はテイトを見ないように分かっている事をテイトに問う。


何が、なんて知ってる。


テイトに酷なことを言ってんのも痛い程わかる。


しばらく静寂が部屋を漂っていたけれど、俺の背後でテイトがベットから降りる音がしたから、テイトに気付かれないように俺は安堵して息をつく。


(あぁ、早く帰ってくれ。じゃないと‥‥)


くんっ、と服を引っ張られる感覚がして嫌な予感が頭を過ぎりつつ背後を振り返ると、怖いほど澄み切った翡翠と目が合った。


「‥‥‥っ」


離れようと無意識に後ろへ後ずされば、テイトが哀しそうに瞳を揺らすから一瞬躊躇うけど、俺はそれを知らぬ振りをしてテイトの指を俺の服から剥がそうとした。


だけど、テイトは頑として離そうとしない。


「‥‥っ、何で俺を避けようとするんだよ」


「‥別に避けてねぇよ」


悲痛な叫びに俺は耐え切れなくて視線をテイトから反らす。


「嘘つくな。お前は避けてる。お前は、俺から離れようとしてる」


重なった指から伝わるテイトの熱が痛い。


「‥‥してねぇよ」


避けてもねぇし離れようともしてねぇ。


ただ俺は、お前が、


「‥‥俺のこと嫌いになったのか?」


テイトの問いを俺は即座に否定した。


「違う」


「俺のことは遊びなのか?」


「違う」


「俺のこと、お前は、フラウはどう思ってるんだ?」


「好きだ」


俺はテイトの目を見てそう告げると、テイトは瞳を細めて「じゃあ」と言う。


「‥‥愛してる?」


「あぁ、」


その言葉の先は言えなかった。


そんな俺をテイトは切なそうに見上げる。


俺はテイトが好きだし愛してる。


ただ、それを口に出して言うのが怖くて、口に出したら、それを言ったら俺がテイトを壊してしまいそうで。


怖くて言えなかった。


「何で‥‥」


「、怖いんだよ」


くそ、と俺は髪をかきあげる。


「こわい?」


テイトが俺の言葉を反芻する。


「そうだよ。それを言ったら、お前を‥‥俺がお前を壊しちまうから怖くて言えねぇんだよ」


壊したくねぇんだ、好きだから汚したくねぇんだよ。


俺はもう耐え切れなくて本心をそのままぶつけた。


テイトはしばらく俺を見つめていたけれど、不意に顔を俯けた。


二人とも立っているから、俺からは顔を俯けてしまったテイトの表現は見えない。


「‥テイト?」


「いいよ」


やがてテイトは顔を上げた。


その顔は綺麗に微笑んでいて。


「‥っ」


「俺、フラウになら壊されてもいい」


「な、」


俺は予想もしなかったテイトの言葉に目を見開く。


「それに好きなやつに愛されて汚れるなんて誰が決めたんだよ?普通、反対だろ」


そう言って笑うテイトはやけに大人びていて俺は息を呑んだ。


「なぁフラウ」


くんっ、と今度は強く引っ張られて俺達はベットの方へ近付く。


「俺を、壊して」


俺を誘惑する甘美で危険な言葉。


正直言って限界だった。


俺はテイトの翡翠を見つめると、テイトも真剣な眼差しで見つめ返す。


「‥‥本当に、いいのか?」


「フラウになら。言っただろ、俺はお前に、フラウに壊されたいって、」


もう気持ちは抑え切れなくて、そう可愛らしい事を紡ぐ唇を俺はそっと塞いで口づけたそのままテイトごとベッドに押し倒した。


甘く深く長い口づけ。


「‥‥っ、ん」


「テイト、愛してる」


「っフラウ、俺、も」


愛してる、と囁いたその唇を強引に、でも優しく俺は再び自分のと重ね合わせた。




Goin' Crazy
(それは言葉なんかじゃ言い表せないほどに、)




***
fin
20090410


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