1月1日


風か小石か。
部屋の窓を叩いていたのはそのどちらでもない、真っ白い紙飛行機だった。

窓を開けると冷たい風が吹き込んできて、燻っていた眠気が醒めた。ちらちらと降りしきる細やかな雪がいつのまにか屋根や道に薄く積もっていて、真夜中なのに外はほのかに明るかった。

新雪に点々と散らばっている、一人分の足跡。

「…なにを」

しているのだ。
言わずにはいられなかった。
傘も差さずパーカーのフードすら被らずに、スーパーの袋を抱えて雪の中で立ち尽くしている男の姿を見れば。

「貴様こんな時間にこんな場所で何をしているのだ!」
「おー、やっと気付いたか。いやー門の警備厳しくて中入れなくてよぉ」

この冷えの中でも流暢にしゃべることが出来るのはやはり寒さに耐性があるからなのだろう。しかしそんなことはヤツがここに居る理由にはならない。

「お前今日誕生日だろ?せっかくだから二人で飲もうと思って」

ホロホロはビールや発泡酒の缶がぎっしり詰まっているらしいいびつな形の袋を持ち上げてみせて、無邪気に笑った。
真っ赤になった鼻の頭や頬が無性にいとおしく思えて、俺は堪らず顔を伏せた。

「メイデンが…、たった今寝たところなのだ。悪いが引き取ってくれないか」

咄嗟に口走った。
語尾が震えそうになった。
そこに嘘はなかったが、なにがなんでもメイデンの名前を挙げなくてはと思った。

逃げるように窓を閉めて、鍵を掛ける。
カーテンを引く間際、なおもこちらを見上げていたホロホロと目が合った。
ほんの数年前には、あの眼差しは、望まずともいつも傍にあったのだ。そう思うと胸が締め付けられるように苦しかった。



小さな粒の雪が舞う夜は、あいつのことを思い出してしまう。

10/1/4


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