7月某日、晴天。
「おっ、蓮も来いよ!涼しいぞ!」
庭先が何やら騒々しかったので覗いてみれば、カラフルなベビープールを取り囲むいつもの面々。
縁側に腰掛けてプールに足を浸している者、ホースやジョウロで辺りの草木や素足に水を掛けている者など、皆が思い思いに涼を楽しんでいた。
ホロホロは蓮を見つけると膨らませていたビニールボールから口を離し、屈託のない笑顔で手招きする。
そのビニールボールをどうする気だ、と突っ込むのも億劫になるほどの蒸し暑さだったので、蓮は不機嫌顔のままホロホロの隣に黙って腰を下ろした。
「……」
「なんだホロホロ。マヌケ面をこっちに向けるな暑苦しい」
「や、お前があんまり素直にこっち来たからよ」
「……俺の勝手だ」
自分で呼んだくせに驚いたように何度も瞬いているホロホロの顔が思いのほか近くにあって、蓮は隣へ腰掛けたことを後悔した。
まん太が家から持ってきたというこのベビープールは、大人が4人足を浸せばいっぱいになってしまう程の大きさだった。
先に涼を満喫しているホロホロに倣い、蓮はくるぶしの上まであるズボンの裾を少しだけ持ち上げて、つま先からゆっくりと足首まで沈める。
目の前で他の霊たちと水浴びを楽しんでいるコロロが冷気を放っているおかげで、ジリジリと照り付ける陽の下でも、水温は心地好い冷たさを保っていた。
竜、葉、ホロホロ、蓮と縁側にぎゅうぎゅう詰めで座っているこの状況は一見すると暑苦しいことこの上ない光景だが、これはこれでクーラーすらない屋内に比べれば遥かにマシなため、誰ひとりこの場所から移動しようとは思わないのだった。
「いやー、にしても涼しいッスねぇ旦那!」
「ああ、まん太様様だな」
「けどどうせなら市民プールとか行きてぇよな、あと海!」
「そういや海開きってもうしてんのか?蓮」
「知らん。なぜ俺に聞く」
「あー海行きてぇなー海ーッ!!」
ホロホロが調子に乗って水に浸した素足をばたつかせる。と、水しぶきが狙い済ましたかのように蓮の顔目掛けて跳ね返った。
「……あ」
「貴様……わざとだろう」
水浸しになって張り付いた前髪の奥で、蓮の瞳が爛々と怒りの炎を湛える。
いつの間に構えたのか宝雷剣の切っ先がこちらを捉えていて、ホロホロは一気に血の気が引いていくのを感じた。
「わっわざとじゃねーって!謝る、謝るからこっち来んなっギャー!!」
「いいなぁホロホロの奴、涼しそうで」
なんでもない夏の日。
2012/7/17
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