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その他
6月26日PM23時

5日間続いた雨が、今日はピタリと止んだ。梅雨の晴れ間というヤツで明日からはまた雨らしい。
「ほんにヅラと酒ば呑むんも久しぶりじゃの」
「ヅラじゃない、桂だ」
小さな透明のグラスに注がれた冷酒に月が映り込む。久々に地球から見た月は満月ではないものの、格段に綺麗に見えた。
「しかし地球に来るのも久々やき、懐かしいぜよ。やっぱええもんじゃのーふるさとゆーんは」
「俺一人に時間をさいてもいいのか?」
他に会いたい者や杯を交わしたい相手がいるだろうに、俺だけでなく銀時や、
続いた言葉が急に止まる。
「ヅラ?」
「いや、何でもない。兎も角、地球にあまり長く滞在しないのだろう?」
自分だけでなくあの頃の仲間を呼んではどうだ、と、あの戦いから生き残ったらしい、懐かしい名前が何名か上げられた。
しかし一人だけ、自分達に共通する仲間の名だけが上がらない。
銀時や、と言い淀んだ際にのみこまれた名は誰のものであるのか明白だった。

なぜその名が上がらないのか。全ての経緯を知っているわけではない。しかし物が、人が動く場所は、色々な情報も動く。春雨と手を組んだ地球人の話は結構有名で、商いをしている際も何度か耳にした。
それが原因の一つであろう事は安易に想像がついたが。当人達からは何も話してくれない。
「ええ、ええ。今日は‥今日やからこそ、おんしと飲みたいんじゃ」
「辰馬?」
「寧ろ今までの分やーゆーて、一日中独占してしもうたかったけんども‥それは流石に怒られてしまうきー」
一抹の寂しさを覚えながらも、それを言う資格がないとどこか諦めて一気に酒を月ごと煽った。
小さなグラスに映る月は容易に飲み込めるのに。宇宙から見る月は、暗くとも確かにその存在を近くに感じられるのに。地球にいると、月が遠い。
「うーん、辛いぜよ」
「甘口の酒がよかったか?」
「あっはっは、酒は甘いのんも辛いのんもどっちもいけるきぃ」
「相変わらずよく分からん男だな」

「ヅラ、誕生日おめでとう」
「ヅラじゃない、桂だ」

いま、隣にいる月が一番遠い。

冷酒を再び注ぐ。グラスに張った水面の月が、淡い夏の香りを誘って、夜風に揺れる。

「あはははは、まっこときれいな月じゃー!」
酔ったフリをして肩に腕をまわす。酔ったフリをしなければ掴めない、傍に座るこの佳人の薄い肩に少しばかり力を込めて。
揺れ動かぬ確かな信頼も友情も確かにこの手にあるのに。一番欲しいものが未だ手に届かない。




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あきゅろす。
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