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喜望峰
紅桜編ラスト後っぽい。2万打企画。




「こんなに遠くにきてしまった」

銀時は珍しく見上げる形で桂の横顔を盗み見た。無表情なのだが、存外寂し気に映る。
少しだけ腹が立った。

上も下も一面の青に境目はなくどこまでも続いているのではないかと錯覚しそうになる。
しかし緩やかな風に乗って確実に下へ下へと落ちて行く。
上を見るのも下を見るのも嫌で銀時は桂の脚にしがみつきながら、真っ直ぐに視線を向けた。

「雲」

不意に桂が呟く。

「なんだぁ?」

間延びした声で銀時は聞き返した。


「いや‥上も下も青いのでな。雲みたいだ本当にお前の髪は昔、から」

桂は昔という言葉につまらせる。
過去を語るには一人足りない。

「昔から天パだと言いたいのかコノヤロー」

決別を宣言したところだというのに揺らいでしまう。
そんな桂が腹立たしくありまた俄かに銀時を不安にさせる。

もしも、最悪の事態になった時斬れるのか?

「昔からその頭ではないか、クルクルパー」

過去を簡単に切り捨てられないのは、自分も同じだというのに。

「天パのパはクルクルパーのパじゃねぇつってんだろーが」

昔、“今”を無理矢理過去に変え何も言わずに去ったのは自分で

そんな過去を踏まえて今を受け入れてくれたのは桂だというのに

案外桂はしぶといし強い。
文句を付けるのも、ましてや心配など烏滸がましいのかもしれない。

高杉の様に桂の挙動一つで表に出さない心の内を理解してやる事なんか出来ないし、坂本の様に包容力もない

それでも、と銀時は思う。

必要だと、言ったのは桂なのだ。

(少しぐらい、俺だって)


銀時は気分と共に再び落ちていた視線の先をぼんやりと見つめる。
形式上夏を迎えたと言ってもまだまだ梅雨の季節で、
海に落ちれば冷たさと塩水が傷を抉るのだろうと想像に易くさらに気を滅入らせた。


「銀時、」

「なんだよ」

桂の呟く様な呼び声に銀時は視線を上げる。
船はもうほとんど見えなくなっていた。

「巻き込んで悪かったな」

「……心配もさせてくんねーのかよ、テメェは」

銀時の呟きは桂に聴かれる事なく、海の潮風に掻き消された。



視線をまた、真っ直ぐに向ける。

視線の先にはやはり青しかなく、喜望峰を見つける事は出来なかった。



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