パリエッタへようこそ
.

「え、はい?」
二人とも話を中断し、俺も声のした方に振り返る。するとそこにはとてつもないイケメンが…ってあれ?こ、こいつどこかで…ってえぇ!!??


「今日からバイト入ります。野村拓真です。よろしくお願いします」


の、の、野村ぁぁぁぁぁ!!??
ちょ、ちょっと待て。なぜ野村がここにいる!!


「はじめまして。あたしは沢田遥です。同じホール担当です。今日からよろしくお願いします」
「先ほどお目にかかりました、月森瑠璃です。ホール担当です!よろしくです!!ちなみにあたしと沢田さんは華の女子高生でーす」
「へぇー沢田さん女子高生なんだー俺てっきり年上かと思ったよ」

野村は月森と沢田を見比べると自分の思ったことを素直に言葉にし微笑んだ。
空気が凍りついた。

「………」

野村の発言が彼女を傷つけたのか、気に食わなかったのか、そのどちらも該当したのかは分からなかったが、可愛い笑顔を向けていたその表情が一瞬にして固まるのが分かった。
やがて自分の発言が失言だったことを理解した野村は、目を泳がせながら慌てて口を開いた。

「ご、ごめんね!沢田さん大人っぽいからあの…」
「…別にいいです。よく言われます。ただ、今の発言であなたの評価が下がりました」

二回目の野村に向けた笑顔は目が笑っていない、絶対零度を思わせるものだった。
沢田は野村を敵とみなしたようだ。

「俺の大切な第一印象が…」

野村は漫画の中でよく使われる効果音がするのではないかと思わせるような表情で呟いた。その表情から沢田の冷たい返答に傷ついたようだった。



「あれ?田中さん?」

自分たちの自己紹介が終わり次を待っていたが一向に田中の発言が無かったことに疑問を抱いたのだろう。
異常に気付いた月森が声をかけた。



振り返ったまま硬直して数秒。
髪はオレンジ色。同じ野村拓真という名前。
どんなに考えても結局は同じ答えしか思い浮かばない。
こいつ俺と同じ大学・同じ学科専攻のあの学科内一番のイケメンとされているやつではないか。
野村は研究室の中でもムードメーカ的存在で、いわゆる人気者というやつである。
頭もよし、運動神経よし、顔もよし、という『もてる男』三大要素のすべてに当てはまる彼は女子から圧倒的人気がある。
男子とも仲良くまさにオールラウンドな彼は人望もある。


なんということだ!!
死んだ。俺死んだ。
明日には噂は流れ、俺の平和なバイト生活The Endだ。

現実逃避を起こしていた俺には月森の声など聞こえるはずもなかった。


「えーっと…田中さん?」

沢田は心配になったのか田中の顔を覗き込む。
いきなり自分の視界に沢田の顔が入ったことに対し驚いたのか息をのむ音が微かに聞こえた。
どうやら、現実に帰ってきたようだ。

「ご、ごめん少し考え事をしてたよ」

素直に違う世界に行ってたよなどと言えるわけもなく、無難な言い訳をして口元を上げた。
上手く笑えてる自信がない。

「次、田中さんの番ですよー」
月森の無邪気な笑顔が目に入る。なんとなくにやにやしてるのはなぜだろう。

「た、田中です。ホール担当です。よろしく」

田中は必要最低限の情報を述べ、先ほどと同じ笑みを浮かべた。
どもってしまったとか、フルネーム言えなかったとか、そんな後悔より今をどう切り抜けるかが、田中にとっては重要だった。

「田中ね、よろしく」

野村は田中の心中を知るはずもなく万人うけする笑顔を向けた


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!