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この感情の正体。/BASARA(佐→幸)
「佐助。」

「何?旦那。」
呼ばれるままに姿を現す。
現すといっても、常に側に居る訳だから、少し語弊があるかもしれない。

主が名を呼べば、それに応えるのは当然の事で。
別に考えて行動している訳ではない。
主と忍とは、そういう関係なのだ。

なのだが。

最近の主はどこかおかしい。
時折、こうして悲しげな表情を見せる。
「一体どうしたのさ旦那?」
そう告げるが、毎度の事ながら返ってくる言葉は無い。
ここ何日か、視線が絡む時間が極端に減っているが、今日もそれは例外ではなく、寧ろ日に日にそれは顕著になっている。
今日は一度も、目が合う事が無い。
目は口程に物を言う、とはよく言ったもので、実にその通りだ。
読心術を鍛えられた忍の俺様であっても、この主の感情を読めないのだから。

あの意志の強い澄んだ瞳が、俺様を映さない。
それはとても、とても悲しい事で、この胸のあたりをぎゅうぎゅうと締め付ける。

(ああ、また悪い傾向だ…。)

こうして、一介の忍である俺様の心を揺さぶるのは止めて欲しい。
忍には、感情なんて必要ないのだ。

「佐助は、いつも某と距離を置いておるのだな。」
「…?」

意味が判らない。
こんなに、常に旦那の側で守っているというのに。
「本当に、どうしたっていうのさ」
距離なんて、ある筈が無い。

「ほら」

そう告げられ、表情が固まる。

「佐助は一体いつから、某に触れなくなったのだ?」

そして今日初めて、主の真っ直ぐな視線とかち合った。
鋭いソレに射抜かれ、息を継ぐ事すら難しい。
「…っな、にを……」

俺様が旦那に触れるのを拒んでいるなんて、そんな事有り得ない。

触り心地の良い柔らかい栗色の髪とか、
いつも傷だらけの肌とか、
すぐに真っ赤に染まる頬とか、

吸い付けば簡単に朱い痕を残せそうな鎖骨とか、

少し乾燥気味の、禁欲的な薄い唇、とか……

「さ、佐助っ!」

自らの顔にかかる主の吐息で、意識を引き戻される。
気付けば、鼻が触れ合う程の近距離に旦那の顔があり、包み込むように旦那の頬に触れていた。
「ッ!!」
慌てて体を離す。

「さ、佐助が某に触れるのを嫌がっていない事は、判った!だからといって、は、はは破廉恥な…っ」

真っ赤になって叫ぶ旦那の声が、とても遠くで響く。
顔を覆うように手を翳せば、自分の顔の熱さに気付いた。

(俺様は旦那に仕える忍で、旦那を守るのが役目で、それ以外の感情は持っちゃ駄目で…っ)

「あ、れ…?」






この感情は、何だ?

(それが恋ってもんさ。)



あきゅろす。
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