意気地なし。/BASARA(学パロ佐幸)
震えている小さな肩を抱き締められない俺のこの弱さを、笑いたければ笑えばいい。
教室の隅に目をやれば、笑い合う伊達と幸村の姿。
幸村の耳元でニヤニヤと伊達が何か囁けば、途端に真っ赤になる彼(か)の人。
「は、ははっ」
「Ha?」
「破廉恥なッ!」
そう言う幸村の頭をグシャグシャと愛しそうに撫でる伊達の姿も、もう見慣れたものだ。
言葉ではそう言いつつも、嬉しそうな幸村の姿も。
あれじゃあ、付き合ってるのなんてバレバレじゃないか。
尤も、伊達の方には隠すつもりなんて端から無いのだろうが。
寧ろ、幸村の周りをうろつく輩に対して牽制しているくらいだ。
(全くもって面白くない。)
「ねぇ佐助、聞いてるー?」
細く白い指が頬に添えられ、カワイコちゃんと目が合う。
瞬きの度にバチバチと音がしそうな睫毛に、力仕事なんて全くした事のないようなおキレイな手。
…吐き気がする。
「聞いてるってば」
ちゅ、という音をさせてグロスたっぶりの唇にキスを落とせば、キャハハという嬉しそうな黄色い笑い声。
(おぇ。早く洗い流したい…。)
「Bye、幸村。」
颯爽と教室を去る伊達の背中を、捨てられた子犬みたいな目で見送る幸村。
「あーあ、そんな無防備なカオしちゃって」
俺は帰る支度をさっさと済ませ、幸村の元へ向かう。
「ちょっと、佐助ー!?」
そんな甘えた声を出す女になんて興味無い。
「さ、帰ろっか」
「あ、ああ」
家路を二人で歩いている間も、幸村の表情は冴えない。
押しかけ女房よろしく、幸村の家で毎日世話を焼いている俺にとって、帰り道の幸村との会話は至福の時間の一つなのに。
「言えばいいじゃない、寂しいって」
「政宗殿にも用事があるんだっ」
その言葉は、自分自身に言い聞かせている様にも聞こえる。
「…ふぅん」
アイツが今から何処で何をするのか、気付いていない筈は無いのに、健気なのも此処まで来ると腹が立つ。
すると突然、幸村の歩みが止まった。
幸村の目は一点を見つめており、その視線の先には、伊達の姿。
正確には、伊達と、熱いキスを交わす女の姿。
「旦那、あのさ、」
「心配するな佐助。俺は政宗殿を信じている」
言葉ではそう言いつつも、小さく震えるその肩に、それが本心ではない事くらい容易く見て取れた。
「律儀だねぇ…」
食事の用意が終わり、幸村の部屋の前まで来たが、ノックする筈だった手が固まる。
中から聞こえるすすり泣きに、心臓が締め付けられた。
ゆっくりと静かにドアを開けると、ベッドの上でシーツにくるまった愛しい人の姿を見つけた。
小さく震えるその肩を、俺は抱き締められない。
それはもうずっと不変の事なのだと思っていた。
けれど。
「…っさすけ、佐助……ッ」
その潤んだ視界に俺を捉えた彼が、俺の名を呼んだ。
泣きながら俺の名を呼び、縋る幸村の姿に、一瞬で何も考えられなくなった。
今まで一度として俺に救いを求めた事など無い幸村の、赤く腫れた目元。
劣情に突き動かされるままに、俺は幸村の唇に喰らい付いた。
「っ!?ん…ふっ」
驚きこそしているものの、拒絶する様子は見られない。
息継ぎすら奪う口付けは、自分がずっと求めていたものなのだと気付いた。
満足するまで幸村の唇を味わった後、額、頬、目元にもキスを落とし、流れる涙を拭った。
「さ、すけ……」
「――ずっと思ってた…」
「…?」
恥ずかしそうに俺の唇から顔を逸らす幸村が、俺を見つめる。
「そんな風に、俺の事も愛してくれたらいいのに、って……」
残酷な貴方!
(俺を突き動かすのは、いつだって君の言葉。)
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