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「………、は?」
「は? じゃねーよかっちゃんの馬鹿ヤロー!」


なに、その間抜けな声。かわいいとか、別に思ってねーし!!
(……嘘、だいぶ、キュンてした)

涙はとまらないまんまで、なのにかっちゃんは、呆けるばかりで近付いてきてもくれない。
……なんなわけ、フツー恋人が不安がって泣いたら駆け寄って甘い言葉の一つでもかけるだろ!
かっちゃんの甲斐性なし、天然馬鹿、俺様自己中!


「とりあえずお前マジで泣きやめ、さっきっから見られてんだろうが」
「……っもっとなんか他にねーのかよ……ッ」


眉間に皺を寄せたかっちゃんの言葉に、オレの中の女々しい部分が過剰に反応する。
オレが泣いてるってことより、人目の方が大事なわけ?って。

……それって、すげーショックなんですけど。


「なにがだよ」
「かっちゃんは、オレをどう思ってるわけ……?」
「は、」


かっちゃんにとって、オレがどうでもいい存在だとは思わない。
それなりに愛されてるんだろうとも思う。
だけど、かっちゃんはいつも、言葉でも態度でもほとんど表してくれねーから。


「ホントにオレを大事だって思ってくれてんのか?」


わからなくなんだよ、オレ。
かっちゃんはキョトンとしてて、それが余計オレの中の不安だとか苛立ちだとかを風船みたく膨らませてく。

ぶくぶく、ぶくぶく。
もう限界なのに、なあ。


「あの人と、同じくらいに」


思わず出たのは、嫉妬丸出しのガキっぽい言葉。
自分でも馬鹿かって思う。
比べてどーすんだ、意味あんのか、って。


だけど、なあ、わかってよ。
かっちゃん、オレの不安わかってよ。
オレだって、『他よりは好かれてる』じゃなくて、ちゃんと愛されてるって感じたいんだよ。


「……なに、つまんねえこと言ってんだよ」


だけど、かっちゃんは心底意味不明ですって顔で、そう言った。
その瞬間、頭ん中は真っ白。


「つまんなくねーんだよ!」


破裂寸前まで膨らんだ風船は、かっちゃんの一言でいとも簡単に、破裂した。
ダン!、思いっきり握りしめた拳で思いっきり電柱を殴り付けて、オレは興奮に震える息を吐いた。
少しおちつけよって、普段のテキトーなオレが頭の隅で笑う。
そんな想像をしてみても、何の意味もなかった。


「オレだって不安になることくらいあんだよ、こうやって泣くことだってある! いつも自信満々じゃいられねーよ!」
「……、」


言葉はとまらなくて、声は震えた。
「……ヤス」かっちゃんは、たっぷりの沈黙の後に少し揺れた声でオレを呼ぶ。
驚いた顔。その顔を見るのがつらくてオレは俯いた。


あーもーほんと、今のオレマジだっせえ。
大体こんなんオレのキャラじゃねーんだよ、いつもの自信満々なオレがほんとなの。
その証拠に、今までの誰にもこんな風に涙を見せたことはない。
みっともなく叫んだこともない。
だけど。


「……かっちゃんのことになると、オレ、だめなんだよ……っ」


かっちゃんの前でだけ、オレはいつものオレじゃあ、いられなくなる。
理由なんて、わかりきってていっそのこと笑えちまう……。



かっちゃんは、知らねーんだろうなァ。
あの夏の日、コートの上でただ真っ直ぐ前を見てたその目が、オレを一瞬で虜にしちまったこと。


(くせーけどさ、オレ、マジであの瞬間、恋って落ちるもんなんだって思ったんだよ)


だから邪険にされても罵倒されても殴られても、少しでも近付きたくて、オレは毎日かっちゃんに付き纏った。


『何しにきやがった女タラシ』
『うぜーんだよテメェ!』
『消えろ』


だけど、そう言って軟派なオレをハナっから嫌ってたかっちゃん。勝算なんて、なかった。
現実じゃあいつだってオレは玉砕覚悟で、夢と妄想の中でしか、上手くいかなかった。
なんで付き合えたのか、オレにも今だにわかんねー。

だからかもな。こんなに不安なの。
今までと違って、勝算ゼロのとこから始まった恋。
しかも相手は扱い慣れたかわいー女の子じゃなくて、素直さなんて皆無で俺様で、かわいいなんて形容詞とは程遠い男。

『好き』なんて言われたことねーし、言うのはいつもオレばっか。
それでも全然いいって思ってたのは、オレが、元カレのこと知らなかったから。
かっちゃんが元カレをどんだけ好きだったか、知らなかったから。


(『もうあの頃みたいに、』)
(……あーもー、だまれよ)
(うっせーよしらねーよ知りたくなかったよ)


元カレには言えてた言葉、オレには聞かせてくんねー言葉。
絶対的に愛されてるって、一瞬でいいから思いたい。
そう思っちまうのって、それって仕方なくねー?


「一回くらい、好きっつってくれよ……っ」


必死こいて、泣きながらなんとか暴露したみっともねー胸の内。
かっちゃんは黙ったまま。
顔もあげらんないオレには、怒ってるのか呆れてるのかすらわかんねー。


「……ヤス」


しばらくの沈黙の後、かっちゃんが静かにオレを呼んだ。
その声はなんだかいつも以上に素っ気なく感じられて。
あー、終わったな、これ。直感的にそう思う。
だけど、いつもの引き際のいいオレはどこへやら。
潔く身を引くのも出来ねーで、ただ俯いていた。かっこわりーな、オレ。

そんなオレに、かっちゃんは溜息をついて。
そして、静かに静かに、別れの言葉を、


「……長ネギの塩ラーメン」


別れの言葉、を………
……………え?
























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あきゅろす。
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