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まだラーメンは残ってる。
オレのはね、かっちゃんのはもうない(……ほんと、好きだよな)。
だけどもう今のオレには、このラーメンはきつすぎて食えない。
残しちゃってごめんねオバチャン。


「待てよ」
「……」
「待てっつってんだろヤス!」


心の中でオバチャンに謝りながら席を立った瞬間、大声で言われて、腕を掴まれる。
しん、静まり返る店内。集まる視線。

……注目されるのが嫌いな、かっちゃんに。


「……かっちゃ、」
「ヤス」


びっくりして、席に座ったままのかっちゃんを見下ろす。
だって、こんなん初めてだ。初めて、こんな。

かっちゃんのオレを見上げる目は真っ直ぐで。
胸がギュンって音をたてた(乙女か、オレ!)。
思わず真っ直ぐ見返すと、かっちゃんが、ゆっくり、口を開いて。


「てめえ奢るっつったろ、なに払わねえで帰ろうとしてんだよ」


「……ジーザス!」
「何語だよ」
「知るかググレカス!!」
「カスだと? 殺すぞてめえ!!」


結局ぶち壊しですかそうですか!
たしかに抱きついたお詫びに奢るっつったけどさ!
なんでシリアスになれねーのかなーオレらって!


結局オレが二人分のお代を払って、二人一緒に店を出ました。
さっきのオレの「帰るわ」発言スカンすぎるよ……。





* * * * * *



また来てね。
オバチャンの少し戸惑ったような声を背に店を出ると、外はもう真っ暗だった。

冷たい風に体が晒されて、寒い。
身を縮めたオレには目もくれず、かっちゃんは歩き出す。
オレも少し遅れて、それを追った。


「……」
「……」
「………」
「………」


……でもって、この沈黙気まずすぎるよね!
帰り道が同じ方向のオレら。いつもは幸せなこの時間が、今は少し苦痛だ。
だって会話はないし、目もあわない。

そのくせ、隣を歩くかっちゃんがハーって白い息を吐いてるのにドキドキしたり、マフラーに顔埋めるのに萌えたり。
手繋ぎてーなって思ったり。……まだ胸のざわつきは収まってないのにさ。
ほんと、オレ馬鹿だろ。


(……だって、好きなんだよ)


心んなかで、言い訳にならない言い訳。
好きなんだよ、かっちゃんが。って。
好きで好きでどうしようもねーの。こんなん初めてなの。


腐男子だけど自他ともに認める女好きだったオレが、そんなん関係ねーって思うくらい。

初めから勝ちが見えてた勝負しかしてこなかったオレが、負け戦するくらい。

親友でさえ頭の中で妄想の餌にするオレが、こいつだけはオレ以外の男と考えたくねーって思うくらい。

めちゃくちゃワガママで自己中なオレが、かっちゃんのワガママだけは全部聞いちゃうくらい。


自信満々なのがカッコいい、って言われてきたオレが、元彼が現れただけで、こんなみっともなく、不安になっちまうくらい。


(だって、……だって、ずりぃーじゃん、あんなの)


元彼だっていうその男は、かっちゃんのタイプど真ん中だった。
小綺麗な顔で、めちゃくちゃ穏やかそうで。
物腰柔らかくて、優しくて健気なかんじ。
その上、年上(らしい)の余裕まであって。
チャラそうとかバカっぽいとか何も考えてなさそうとか、そんなことばっか言われるオレとは正反対で。


(好きだったんだろ、かっちゃんは、あの人のこと)


あんま多くは話さなかったかっちゃん。
だけど表情とか目とか見てればわかる。
あーすげー大事だったんだな。好きだったんだなって。
それ、に。


『もうあの頃みたいに好きって言ってくれないんだね、克也』


――あの別れ際の瞬間、オレがどんな惨めな思いをしたか、かっちゃんは知らないだろう。
あの人は、かっちゃんに好きって言われたことがあるんだ。
きっとそうして、不器用に抱き締めてもらったんだ。
だけど、……だけど、オレは。


「ヤス? ……っ!?」


電灯の真下で、かっちゃんが振り向く。
オレはその一本後ろの電灯の下で、いつの間にか動けなくなってた。
オレはただ泣いていた。
だーっと流れる涙がとまらない。


「ちょ、っおま、……なに泣いて……ッ」
「か、っちゃのせい、だろ……っ」
「、はあ!?」


近付いてくることも出来ずわたわたと慌てるかっちゃんに、さらに泣けてくる。
ここは「なに泣いてんだよ、馬鹿」って頭叩くとこだろ?
かっちゃんてほんと、わかってねー。


「なんなんだよ、かっちゃんの馬鹿ぁあ……!」
「っちょ、落ち着け、な?」
「なんでいっつも長ネギの塩ラーメンばっか頼むんだよ〜……っ」
「は? 、つかマジ泣き止め、」
「なんで嬉しそうに後輩の話ばっかすんだよぉ……っ」
「いや意味わかんね、じゃなくて……!」

「なんで、…っなんで元彼には好きっつったくせに、オレには一回もぉお……!」



なんで、好きって言ってくんねーの?























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