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森下の言葉を遮って、握られてない方の手で、ゆっくり、森下の頬に触れた。
びくつく体。まるで、さっきまでの俺のようだ。
俺が殴った痕を、指先でなぞる。


「……こんな大馬鹿野郎を今もまだ嫌いになれねえ俺が、一番馬鹿だ」



馬鹿でぬけててヘタレで臆病で。
そのくせドSで鬼畜で嘘つきで。
何回傷付けられたかしれないし、裏切られもした。
何回こいつに隠れて泣いたかなんて、もうわからないくらいだ。

ほんと、どうしようもないヤツ。
ここまできて今更好きだなんて、虫が良すぎんだよ、クソ野郎。


だけど、よ。
だけどそれでも、やっぱり俺は。



「……松本、せんぱ……」


渇いた声が、俺を呼ぶ。
最後まで呼ばせる前に、その間抜けなツラを、笑ってやった。
そして頬をなぞっていた指で、思いきりその頬を、引っ張る。


「……っひはい……」
「うっせえよ、ろくでなし。殴り殺されねえだけありがたいと思え、バカ下」


森下のしたことを許せたかと聞かれれば、それは答えはノーだ。
それだけのことをこいつはしたし、許すつもりもない。
だけど、

だけど、それがなんなんだ。


「一応言っとく。俺はお前の言ったこと、信頼したわけじゃねえからな」
「……ん」
「好きになりたくなかったってのも本当だ」
「……ん」
「当分、許すつもりもねえから」


だから精々、本気でお前が俺を好きなら、償ってみせろよ。
低く唸るように、森下に囁いた。
そうする以外、俺にはこいつの言葉の真偽をたしかめられない。
何が嘘で何が本当かなんて、本人にしかわからないから。
森下は、手を離さなかった。


「……へんぱい」
「……なん、……っ!?」


真っ直ぐに俺を見つめて、森下は俺を呼んだ。俺が頬を引っ張ったままなせいで、間抜けな声と顔。
手を離すよりも早く、その手を掴まれ、抱き寄せられた。


「……っもり、し」
「俺、もー絶対、松本先輩に嘘、吐かない」


至近距離から耳へ入り込む、優しい声。
この間までの冷たいのに火傷しそうなものじゃなくて。
少し頼りない、俺の好きな声。


「嫌がることなんか絶対しない。もう泣かせたりしない」


互いの服越しに触れる体温は、温かい。
この間までの触れられるには熱すぎるものじゃなくて。
少しだけ平均より高い、俺の好きな温もり。


「もう絶対、好きになりたくなかったなんて、そんなこと、言わせないから」


森下は、ゆっくり体を離す。
そして、呆気にとられてる俺の涙の跡を、優しくなぞって、……笑った。


「それくらい、俺、松本先輩のことちゃんと、大事にする」


下手くそでも、大事にするから。
そう笑う森下の笑顔は、涙でぐしゃぐしゃで、いっそ笑えるくらい情けない。
けど、この間までの歪に歪んだ冷たいものじゃなくて。
曇りのない、柔らかい、俺の好きな、……だいすきな、笑顔。


「俺、本当に、松本先輩が好きだよ、……大好き」
「……っかじゃねーの……ッ」


ずっとずっと欲しくて欲しくて焦がれ続けた言葉は、たしかに今きっと、俺に向けられている。
それが馬鹿みたいに嬉しくて、嬉しすぎて泣けて、泣き顔を見られたくなくて森下の肩口に額を押しつけた。
躊躇いながら、ゆっくり背中に回される腕。
不器用なこいつが、今はただ、愛しかった。


「……ほんと、バカ下」



森下のしたことを、許したわけじゃないんだ。
簡単に許せるようなことじゃないし、そんな簡単に許しちゃいけないから。
あんなことをした理由も、今はまだ、まともにわからない。


だけど、そんなことを問題にするには、俺は森下を好きすぎた。


………ああ、森下が好きだ。ムカつくから言ってやらないが、ぶっちゃけると、愛してる。
馬鹿でも鬼畜でもどうしようもないほど不器用でも、どんだけ傷付けられようが泣かされようが関係ないくらい。
なんでこいつなんだ。そんなことを何回も考えて、答えは見つかってない。だけど、好きなんだ。

だから、こいつのしたことを許せなくても理由がわからなくても、別に、いい。


「……すきだよ」


今森下がそばにいて、俺だけを見て、俺だけに好きだと笑うなら。
許せなくてもわけがわからなくても、それだけで、こいつを受け入れる理由になるから。


「だいすき」


人は、間違ってると言うかもしれない。
人は、異常な執着や子供じみた独占欲を抱く偏執病みたいだと言うかもしれない。
だけど、人なんか、どうでもいい。

異常な執着?上等だろ。
子供じみた独占欲?それがなんだっていうんだ。

間違いだの偏執だのなんだの、言いたいなら好きに言っていればいい。
非難したければ非難しろ。
だけど俺は、多分絶対、この手を離せない。
たとえそれが、世界中から嘲笑われるくらい、愚かなことでも。


だから。だけど。
なあ森下、
これだけは、絶対忘れんな。


「……ずっと言ってろ、馬鹿」
「うん。……松本先輩」
「あんだよ」




「……あいしてる」




「………ヒキョーモノ」


それが嘘でも本当でも、お前のその言葉とお前の目にうつる俺だけが、俺の世界のすべてだよ。







偏執ラプソディー
(遠回りして、傷付いて、だけど僕らは明日を歌う)
(繋いだこの手が、離れぬようにと)





受け:松本 啓介(18)
攻め:森下 和樹(17)

やあっと終わりました偏執ラプソディー!
ユキさま本当にお待たせしました!すいません!!
無駄に長くなってしまって申し訳ないです…
こんな駄目駄目な話でよければもらってやってください…!

最近こんな感じのハッピーエンドになりきらないハッピーエンドが好きです。
趣味はいりまくりです。
正直、終わり方はあと3通りくらい考えてました←

この作品はかなり皆様に応援いただきました!
本当にありがたいことです…!
10年2月下旬くらいまではアップが遅いなど色々あると思いますが、今後ともこんなサイトですがよろしくお願いします!

リクエストは常時受付です(^^)
ただしアップは10年2月以降です…すいません!


お読みいただきありがとうございました!
ユキさま本当にお待たせしました…!!






















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あきゅろす。
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