森下の腕が、痛いくらい俺を締め付ける。
それにすら抗議の声も上げられないくらい、ただ、頭がガンガンと痛かった。
「絶対に、アンタを傷付けたくなかったんだ……っだけど傷付けるしかなかった、どうすりゃいいのかわかんなくて……ッ」
森下の言ってる意味が、わからない。
頭が、痛い。
「ミキがアンタのこと好きなのも、アンタが俺のこと好きなのも、全部わかってたから、……ミキが好きだなんて、嘘ついて……ッ」
ごめん、ごめん、傷付けたのは俺の方なんだ、ごめん。
そう謝る森下の言葉が、すべて通りすぎていく。
それなのに、その言葉は胸に、錘のように重く沈んでいった。
その重さに、止まっていた涙が、溢れる。
「………う、そ……?」
うそ。うそ、……嘘?
佐上が好きなのだと切なく笑ったお前は。
想いのあまりに歪んでいった悲しいくらい一途なお前は。
今までの、お前は、全部?
「嘘、だったのか……?」
それなら、お前は今まで、一体何のために?
(俺は、今まで、何のために、)
「な、んで、……なんで、そんな嘘……っ」
「ごめん……ごめんね、先輩……っ」
「――っ!」
かあ、と、頭に血がのぼった。
何を考える間もなく、俺は森下を突き離し、殴り付けていた。
「っふざけんな……ッ!」
ドサ、と、森下が倒れる。
俺を見上げるその目からは涙、その口元には、赤い、血。
「ごめんじゃねえだろ、わけわかんねえ……、っわけわかんねえよお前!」
森下を殴り付けた手が、痛かった。
今までのすべてを否定されたような、踏みにじられたような気持ちだった。
「……っせん」
「なに? 知ってたって。嘘だったってなんだよ? ……お前、佐上が好きだって泣きそうな顔して笑ったじゃねえかよ……!」
何のために。何のために。何のために、そんな嘘。
わけがわからなくて、佐上の泣き顔がちらついて、森下の涙に胸が痛んで、壊れそうだった。
なんで、どうして、そればかり、繰り返す。
だって。
これじゃあ誰も、誰一人、報われないじゃないか。
「……嘘、だよ、先輩」
「……なんでだよ……っなんで、なんで!」
森下の顔が、またくしゃりと、歪んだ。
森下は尻餅をついていた体を、ぐぐ、と腕を震わせながら、上体を起こす。
俺は涙を抑えることも出来ず、ただ森下を睨み付けた。
「………嘘なんだ」
森下の手が、ゆっくりと、俺に伸びてくる。
小刻みに震える手。
また、抱き締められるのだろうか、(愛しい)お前のその手に。
懺悔のためだけの、俺の想いを知った上での抱擁。
そんなもの
いらない、のに。
「……っ……?」
「……本当は」
けれど、俺の考えとは裏腹に、森下の手は、俺を引き寄せ抱き締めるのではなく、俺の指先にうすく触れただけだった。
驚いて、びく、と体が跳ねる。
そんな俺に構うことなく、森下は、俺の手を(まるで祈るように)、優しく、両手で、包んで。
「本当は、」
――ずっとずっと、森下が好きだった。
柔らかな笑顔が、俺を呼ぶ声が、少し高い体温が、その不器用な一途さが好きだった。
森下が誰を想っていても関係なくて、その誰かと幸せになれるなら、俺も報われると思っていた。
叶わない想いを、何度も何度も繰り返し、諦めようと忘れようと消そうとした。
けど、出来なくて。
好きで好きで好きで好きで、たまらなくて。
こいつになら何でもしてやれるくらい。それくらい、森下が、
「本当は、ずっと、松本先輩が――……」
すき 、だっ、 た、?
「…………え……?」
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