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「俺のことが、嫌いになったんでしょ……?」


森下の小さな声が、胸に突き刺さる。
違うんだ、その言葉が、俺にはうまくいえなかった。


「……ち、が」
「そりゃそうだよ、わかってる、……わかってるよ、そんなん……っ」


違う、違ぇんだ、森下。
嫌いなんかじゃない、嫌いになんかなれっこない。
きっとお前にどんなことをされても、俺は。

だけど、森下は尚も泣きそうな顔で揺れた声で、そう繰り返すばかりで。
ああ、聞こえてないんだと思った。
俺の言葉は、もう森下には、届かないんだと。
そう思ったら、またあの衝動が、こみ上げてきた。
だけど、こいつの前でだけは、もう泣きたくないから。


「ちげえっつってんだろッ!」


その衝動を殺すように、声を荒げた。無意識だった。
森下が、固まる。きっと、無意識だろう。
だけど、一度溢れ出したら、とまらなくて。


「俺がてめえを嫌えるわけねえだろうが! んな簡単に嫌えるくらいなら、最初にヤられたときにとっくに嫌いになってる! こんな苦しい想いだって、しなくてすんでんだよ、馬鹿野郎っ!」


多分、もう、限界だったんだ。本当にとまらなかった。
吐き出す、吐き出す、吐き出す。
今まで言えなかった全部を吐き出すように、俺は森下を睨みつけたまま、言い続けた。


「それを、何が嫌いになったんでしょ、だよ! 嫌いに? ああ、嫌いになれるもんならなりてーよ、お前みてえな奴のことなんか!」
「、せん、」
「俺の気も知らねえで勝手なことばっか言って、力と言葉で俺をねじ伏せて好き勝手抱いて、嫌うことも許しやしねえ……っ!」
「……っ」


森下の表情が、泣き出しそうに歪む。
だけど、俺だって多分、俺の方が多分、相当みっともない顔をしているはずだ。


(……ああ、だめだ、)
(そろそろ、とまれ)
(もう、これ以上は、)


ずっと言うつもりなんかなかった言葉が、次々にこぼれていく。
それは、俺に胸に沈んだ錘が一つずつ壊れていく感覚と、それから、何もかも森下に露呈してしまうのではないかという危惧を俺にもたらした。
このままじゃ、言ってしまう。お前が好きだったんだと、言ってしまう。
そう思うのに、とまらない。

呆然としていた森下が、ふいに慌てたように、「先輩待って」と言ってくる。
だけど俺には、それを聞く余裕はなかった。


「大体、なんで俺を抱くんだよ? なんで俺に佐上の真似させんだよ? なんで俺に、佐上が好きだなんて言ったんだよ……」
「先輩……、まって、ってば」


森下の声が、遠い。


「気持ちのねーセックスなんてただ痛ぇだけなのに。佐上になりたくたって俺にはなれねえのに。お前の応援なんかしたくなくても、応援するしか、ね……っ」


自分が何を言っているのか、わからなかった。
ただ苦しくて、でもとめなきゃと思って、でもとまらなくて。

だけど、本当は。


(こいつと佐上との恋なんか、応援したくない……、)


……したくなかったんだ、本当はずっと。
だけど、こいつのためなら、って、ずっとそう言い聞かせてきた。
本当は、思ってほしかったけど。俺を見てほしかったけど。でも、そんなことは叶うはずもないことだから。
誰にも、言えなかった。言えないまま、ここまできてしまった。
誰に言うつもりも、なかったのに、よりによって、森下に、言ってしまった。

ついにぼろっと涙がこぼれて、それと一緒に俯いて、それと一緒に、言葉が、こぼれた。



「俺、お前が、すき なのに、」



空気の流れが、止まった。森下がひゅ、と息を飲む。
その音を聞いてから、ああ、と思う。


(……ああ、……言っちまった)


これだけは、絶対言わないでいようと思ったのに。
それなのに、言ってしまった。好きだと、好きなんだ、と。


「………せん、……ぱ」


森下の声が、上から聞こえる。
震えてる。掠れてる。
……俺は、頭がおかしいのかもしれない。
(こんな時まで、こいつを、いとしいとおもうなんて)


「……好き、なんだ……」


森下は、どう思っただろうか。俺の想いを聞いて。
驚いているか。後悔してるか。ありえないと思っているか。
……喜んでは、いないだろう。
そう思ったら、歯止めがきかなくなって。


「お前が、佐上を好きなように、おんなじように、俺も、お前を……」


そこまで言って、急に胸がつまった。引き裂かれるように痛んだ。

そうだ。想いを告げたところで、こいつは絶対、俺を見ない。
1%の確率すらない。
だから、言わないでいようと、そう思ったはずなのに。

自分で自分に笑えて、俺は笑って森下を見上げた。
俺を見てるはずの森下の顔は、なぜだか見えない。
逆光のせいだと俺が気付いたのは、ずいぶん経ってからだった。






















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