馬鹿だな、と思う。
こんな顔を、するなら。こんな辛そうに、するなら。
俺との関係なんか早々に切って、佐上に想いを告げればいいのに。
そう、思った。
「……森下」
だから俺は、唾を飲み込んで、一度目を伏せてから、笑った。
さっきまで渦巻いていた泣き出したいような衝動は、消えていた。
優しく呼んでみれば、森下は、あの日と同じように、顔を歪める。
「……な、に」
ああ、お前のこんな、少し困惑したような声ですら、こんなに愛しい。
お前の暗い歪みですら。
ずっとずっと、言い出すことはない想いだけど。
「もう、やめようぜ」
なあ、好きだ。お前が、好きだよ。
「こんな関係、もう、終わりにしよう」
だから、どうか、幸せになってほしいんだ。
俺のやっと吐き出した答えに、森下は、何も言わなかった。
ただ、目を見張って、食い入るように俺を見てる。
俺は、胸の軋みをおさえながら、続けた。
「この2週間何もなかったってことは、もうお前もそのつもりなのかもしんねえけど」
「……」
「一応、俺からもいっとかなきゃと思ってよ……、」
そう言って、笑おうとした。
だけど、思いの外胸の軋みがひどくて、俺は不自然に口角をあげ、そのイビツさに気付いてすぐに唇を結び直す。
森下は、何も言わない。
ただ、その唇が震えている。
「……お前と佐上には、悪いことしたって、本当に思ってんだ」
俺のエゴのせいで、森下を傷付けた。佐上を傷付けた。
「だからその分、これからは佐上とのこと、協力するから。……だから、佐上に真っ直ぐ向き合えよ」
あんなことしてたって、何一つ手に入らない。前にも進めない。
そうなるべく真っ直ぐに森下を、見つめる。
揺れた目を見ているのは、ひどく、辛かったけれど。
「……」
「……森下」
森下が、ふい、と目を反らす。
少し咎めるように呼べば、固く結ばれる唇。
逃げるなよ。
そう想いをこめて、もう一度呼ぶ。森下。
「……それ、……って、」
それに応えるように、森下が、小さく小さく、ゆっくりと言う。俺は、黙ってそれを聞いた。
森下は、またゆっくりと、俺を見る。
その表情に、息がつまった。
「も、り、……」
「……俺のこと……嫌いに、なったから……?」
「――」
何、を。何を、言ってんだ、こいつは。
そんなこと、ありえねーのに。
それなのに、森下は、今にも泣き出しそうな小さな子供のような表情でそう言って、縋るみたいに、俺を見つめた。
「ねえ、……だから、なの?」
「……何、言って」
「だって言ったじゃん!」
揺れた声で、それをあの日とは違い、隠しもしないで、言われる。
何言ってんだよ、そう言いかけた俺の言葉を遮り、森下はまた深く俯いた。その表情は、今度は、見えない。
「……俺のこと、嫌いだって。そう、言ったじゃんかよ……っ」
「――」
『きらいだ……っ』
森下の言葉に、あの日俺が吐いた嘘が、蘇った。
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